睡眠学会で「睡眠および不調改善効果に関する質的研究」の成果を発表
女性の更年期症状と睡眠の関連性については、これまで多くの文献で指摘されてきました。パラマウントベッド睡眠研究所の先行研究では、40〜50代の就労女性15名を対象に、睡眠と更年期症状に関する半構造化カウンセリングを実施し、アテネ不眠尺度(AIS)とセルフマネジメント力において有意な改善が認められました。しかし、カウンセリングのどの要素が改善に寄与したのかを明らかにする必要がありました。
本研究では、改善効果が顕著であった1名のカウンセリング記録を対象に、SCAT(Steps for Coding and Theorization)を用いた質的分析を実施しました。その成果を、パラマウントベッド睡眠研究所の塩貝有里が2025年6月28日〜29日に広島大学で開催された「日本睡眠学会第49回定期学術集会」にて発表しました。
睡眠学会で研究成果を発表している様子
SCATは、日本人研究者によって開発された質的分析手法であり、インタビューや観察記録などの言語データを対象に、理論的な洞察を導くことを目的としています。本研究では、対象者のカウンセリング音声を文字起こしし、SCATの4ステップに従って、①重要語句の抽出、②言い換え、③それを説明するテキスト外の概念の導出、④構成概念の抽出を行いました。得られた構成概念は、相談者の気質や悩み、カウンセラーの専門性、カウンセリングの構造など、改善効果に影響を与えると考えられる要素として整理されました。これらの要素は、「相談者」「カウンセラー」「カウンセリングスタイル」の3カテゴリーに分類し、各要素間の相互作用を分析しました。
分析の結果、半構造化面接の特性を活かして対象者の気づきを促すことに加え、対象者の利益と結びつく支援が重要であることが示されました。さらに、カウンセラーのバックグラウンドやカウンセリングスタイルが、対象者の悩みや気質・性格とうまくマッチしていることが、改善効果に大きく寄与していることが明らかとなりました。
本研究は、睡眠改善を目的としたカウンセリングにおいて、個別性を重視したアプローチの有効性を示すものであり、今後の支援方法の設計に対して重要な示唆を与えるものと考えられます。量的研究の発表が多い睡眠学会において、本研究のような質的研究は高い関心を集めました。発表を聴講した研究者のコメントから、「質的研究を通じて人間の感情や経験、価値観に対する洞察を深めることで、心理的支援に役立てる。このアプローチは、特に女性を対象とした研究において有効なのではないか」といった示唆が得られました。