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医療

親指の付け根が痛くてペットボトルが開けられない 中高年女性に多い母指CM関節症を治すには

2024年11月掲載

柏Handクリニック
院長

田中 利和(たなか としかず)先生

 親指に力を入れると付け根が痛く、物をつまんだり、ペットボトルのふたを開けたりするのを難儀に感じる人は母指(ぼし)CM関節症かもしれません。親指の関節の軟骨がすり減ったり、変形したりすることで起こります。CM関節(carpometacarpal joint)とは親指の付け根にある第1手根中手骨関節のことです。中高年女性に多く、症状が進むと家事などがおっくうになり日常生活にも支障を来すため、症状が軽いうちに医療機関を受診することが望まれます。母指CM関節症の発症のメカニズムや治療法などについて、柏Handクリニック(千葉県柏市)院長の田中 利和先生にお聞きしました。

母指CM関節症はなぜ起こる

 親指には3つの関節があり、付け根の部分の第1中手骨(ちゅうしゅこつ)と大菱形骨(だいりょうけいこつ)の間にあるのが母指CM関節です(図1)。大菱形骨は馬の鞍のような形をしており、その上に第1中手骨がまたがるような構造です。この構造によって親指は他の指よりも可動域が広く、多様な動きができるようになっています。
 

 田中先生は、「母指CM関節は前後左右、広範囲に動く分、負担も大きく、加齢などによる軟骨の劣化・摩耗が加わると、第1中手骨と大菱形骨をつないでいる靭帯が緩んで、関節が不安定になり炎症が起きて痛みが生じるようになります。それが母指CM関節症です。進行すると関節のズレにより亜脱臼や、親指の付け根が出っ張るなどの変形が生じ、物をつまむとき、つまんだ物を回すときなどに痛みが出ます。そのため、食器洗いの際に皿をつまめない、ドアノブが回せない、トイレで下着を引き上げられないといったさまざまな不自由につながります」と話します(図2)。


50代以降の中高年女性に多い

 母指CM関節症は「圧倒的に女性の患者が多い」と田中先生は話します。図3は2023年5月1日から2024年4月30日までの1年間に柏Handクリニックを訪れた母指CM関節症に罹患した患者516名の内訳です。81%が女性で、50代以降、特に60代が多くを占めていました。「閉経による女性ホルモン減少などとの関係が示唆されていますが、女性に多い理由はまだはっきりわかっていません」(田中先生)。
 


 診断は、問診、触診、X線検査などによって行います。触診では、第一中手骨の基部を甲の側から圧迫すると痛みが増強したり、中手骨が関節内に戻る音が聞こえたりするのが特徴です。またX線検査では母指CM関節の隙間が狭くなっていることや、炎症が原因でできる棘状の骨棘(こつきょく)や亜脱臼が認められたりします。田中先生は、「似たような痛みを生じる疾患に、親指の腱鞘炎やリウマチによる関節炎などがあるので、専門医に診察してもらうことが重要です」と話します。

『CMバンド』の着用が効果的

 治療の基本は、親指をできるだけ動かさずに休める保存療法です。痛みが強い場合は、消炎鎮痛薬の内服や関節内へのステロイド等の注射が行われます。医療機関の中には、患者自身の血液から組織の再生に効果的な成長因子を凝縮した血漿を抽出して直接注射するPRP療法(自己多血小板血漿注入療法)を行うところもあります。PRP療法は保険適用外で自費診療となります。
 田中先生は、「保存療法には、母指CM関節の可動域を最小限に抑えるための装具、『CMバンド』の着用が効果的です。装着によって痛みがあるCM関節をできるだけ使わず指の力を伝えることができるので、症状の軽減に役立ちます」と話します。
 親指用の装具はドラッグストアなどでも市販されていますが、田中先生がクリニックで用いるのは自ら開発したビニール製の装具です(写真1参照)。「水に濡れても大丈夫なので、着用したまま水仕事ができるのが特徴です。こうした装具を3カ月程度装着していると炎症が治まり症状が軽快するというデータもあります。亜脱臼や関節の変形もない軽症の場合は、装具を付けてまず様子をみるというのも一つの方法でしょう」(田中先生)。医療用装具は医療保険の適用となっており、医師の指示により装着した場合は、後から療養費として代金の一部が償還されます。


写真1 母指CM関節用装具『CMバンド』
 

痛みが取れない場合は手術も選択肢

 母指CM関節症は、多くの患者が装具の着用や服薬、関節内注射などによって症状が軽減していきますが、それでも痛みが取れない場合は手術も選択肢に入ります。
 手術には第1中手骨を切ってつなぎ直しプレートで固定する「中手骨骨切り術」、第1中手骨と大菱形骨を固定する「関節固定術」、大菱形骨を一部、またはすべて摘出して自身の腱や人工靭帯で第1中手骨を吊り上げ関節を安定させる「関節形成術」など、さまざまな術式があります。
 「症状によって術式も異なりますが、例えば中手骨骨切り術の場合、関節が残るので後々症状が再発した場合も外科的対応の選択肢は広がることになります。手の外科を専門とする医療機関に相談することをお勧めします」(田中先生)。

母指をできるだけ大きく広げて使い再発予防

 症状が改善しても再発しやすいのが母指CM関節症です。再発防止策について田中先生は、「親指をできるだけ大きく広げて使うことを意識してください。親指が手のひら側に曲がったままだと亜脱臼も起こしやすいからです。ソフトボールのような大きめのボールを包み込むように持ってしばらくキープするストレッチ(写真2)も、母指CM関節の動きを良くするのに有効です。また、痛みがぶり返しそうになったら早めに装具を着用すると予防につながります」と話しています。


写真2 ソフトボール(3号球)を使ったストレッチ