専門家に聞く!ヘルスケア情報
健康な高齢者の2割がかくれ脱水 サインを見逃さないで補水を
情報誌けあ・ふるVOL.118(2024/1)掲載

済生会横浜市東部病院
患者支援センター長
谷口 英喜 先生
微熱や頭痛、原因が思い当たらない体調不良は、脱水症の一歩手前まで体内の水分が足りなくなった「かくれ脱水」のサインかもしれません。特に高齢者では健康な人の約2割がかくれ脱水になっていることが分かり、専門家は注意を促しています。かくれ脱水はそのサインを見逃さずに水分を補えば解消できます。かくれ脱水への適切な対応について済生会横浜市東部病院患者支援センター長の谷口英喜先生にお聞きしました。
身体の55〜60%は水分
私たちの身体には多くの水分が含まれています。成人男性で体重の60%、成人女性で体重の55%が体液と呼ばれる水分でできています。汗をたくさんかいたり、下痢などで水分を失ったり、十分に水分を摂取できないで体内の水分が足りない状態になると、脱水症のさまざまな症状が起きてきます(表1)。
谷口先生は「脱水症はすぐに治療しなくてはならない病態です。脱水症になると血液が濃くなって、その延長線上には脳梗塞や心筋梗塞など重大な病気につながり
ます。脱水症になる一歩手前の状態を『かくれ脱水』と呼んでいます。体内の水分は不足ぎみだけども、症状としてはっきりとは出ないで隠れているという状態です。そのまま放置をしていくと、脱水症に移行して危険な状態になるので、かくれ脱水の段階でみつけて脱水症になるのを予防することが大切です」と説明します。
失う水を食事と飲み水で補う
体内の水分量は、汗や尿で身体の外に出ていく水分と飲食によって身体の中に入る水分のバランスで一定の量に保たれています。身体から出ていく水分としては、まず尿と便と汗の3つが目に見えて失っていくものです。この3つで出て行く水分は1日に約1500ミリリットルです。
このほかに無意識のうちに身体から出ていく水分があります。それは皮膚から蒸発する水分と肺から呼気として出ていく水分で、体重60キログラムの人で1日に約900ミリリットルになります。谷口先生によれば「これは不感蒸泄と呼ばれる生理的な現象で、活発に活動していなくても、1日中寝たままでも、どんな生活をしていてもこれだけの水分が失われています」ということです。
合わせて1日に2400ミリリットルの水分が身体から出てゆくわけですから、その分を食事と飲み物で補給しないとバランスがとれません。きちんと必要量の食事ができていれば、1食あたり400ミリリットルくらいの水分が取れています。3食で約1200ミリリットル。残りの約1200ミリリットルを飲み水やお茶などで補うことになります。
表2に挙げたようなサインがあったらかくれ脱水かもしれないので要注意です。谷口先生は「脱水のサインに気がついたらとにかく水分を補給してください。経口補水液やスポーツドリンクがあればなおよいですが、飲み水でもかまいません。脱水による身体の痛みは頭痛、筋肉痛、関節痛など部位を選ばずに痛くなるのが特徴です。37℃程度の微熱も脱水で起こります。こうしたかくれ脱水の症状の大半は水分の補給で解消します」と言います。
高齢者の2割がかくれ脱水
谷口先生は「高齢者はかくれ脱水になりやすい素因をいくつも持っています。喉の渇くのに気づきにくい、食が細い、筋肉量が低下して体内の水分量が体重の5割ぐらいまで落ちているなど。特に食が細くなると栄養が不足するだけでなく、食事からとる水分も足りなくなってきます。こういう高齢者は周りの人がかくれ脱水のサインに気をつけていなくてはいけません」と注意を促します。
谷口先生たちの研究では、65歳以上の元気な高齢者で普通に自立して生活している方の血液を調べたところ、約2割がかくれ脱水の状態でした。谷口先生は「夏の汗をかく時期に限らず、乾燥する冬に限らず、1年を通して普通に生活している高齢者の約2割はかくれ脱水と言える水分不足の状態になっていることが分かりました」と言います。
補水は少量ずつ時間を決めて
高齢者の周りにいる人が気をつける点について、谷口先生は「食欲が普段より落ちている、または、食事以外の水分摂取量が減っている場合には要注意です。かつ、疲れやすい、身体のどこかが痛い、何となく体調不良である、の3つの症状のうちのどれかがあったらかくれ脱水が起きている可能性が高くなります」と話します。
かくれ脱水も対処の基本は経口補水液などで水分を補給することです。「水分をとる際のポイントは、なるべく分けて飲むこと、時間を決めて飲むこと、この2点です。一気に500ミリリットルとか大量に飲むと尿として出てしまう量が多くなるので、1回あたり100から200ミリリットルくらいずつ飲むのが適当です。飲む時間を決めるのは、喉が渇かないから飲むのを忘れてしまうからです。寝る前と朝起きたときに飲む。起きている間は2時間置きぐらいに飲むように決めておくとよいでしょう」と谷口先生はアドバイスしています。