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医療

夜中に突然足がつる「こむら返り」 筋肉量減少が一因、漢方薬「芍薬甘草湯」が奏効

情報誌けあ・ふるVOL.117(2023/10)掲載

目黒外科
院長

齋藤 陽 先生

 中高年になると、睡眠中に突然足がつる「こむら返り」に悩まされることがあります。頻繁に起こるため、夜眠るのが怖いという人もいるほどです。激しい運動をしたわけでもないのに何故就寝中に突然足がつるのでしょうか。そのメカニズムと治療法、背後に潜んでいるかもしれない病気について、血管外科が専門の目黒外科院長の齋藤陽先生にお聞きしました。

ふくらはぎなどに突然起こる激痛

 こむら返りとは、無意識に強い筋収縮(けいれん)が突然起こり激痛が走る状態のことです。最も起こりやすいのはふくらはぎですが、太ももや足の指も起こりやすい部位です。医学的には有痛性筋痙攣と呼ばれています。
 齋藤先生は、「筋肉や腱には、筋肉が伸び過ぎないようにする筋紡錘というセンサーと、伸び過ぎに加え縮み過ぎもコントロールする腱紡錘というセンサーがあります。通常はこれらがうまく働いて、無意識のうちに筋肉の収縮を繰り返しているのですが、何らかの理由でこれらのセンサーが働かなくなると、筋肉を縮めた瞬間、縮みっぱなしとなり、痛みを伴ったけいれん状態になります。これがこむら返りです」と説明します。

こむら返りの原因は様々

 センサーが働かなくなる理由、すなわち、こむら返りの原因には様々なものがあります(表1)。
 「中年以降で発生頻度が上がる原因の1つは筋肉量の減少です。筋肉量が減ると筋肉内の血流やリンパの流れも悪くなります。その結果、乳酸等の疲労物質の排出がしづらくなり、筋紡錘、腱紡錘のコントロールも不良となって、こむら返りが起こりやすくなります。あと、疲労です。高齢になるほど疲労回復には時間がかかるので、乳酸などの疲労物質が蓄積しやすく、こむら返りの原因となります。その他、冷えや動脈硬化、水分不足などによって血流が悪くなったり、暑さなどで脱水し体内のナトリウム、カリウムといった電解質のバランスが壊れても、こむら返りが起こりやすくなります」(齋藤先生)。
 なお、就寝中にふくらはぎに起こりやすいのは、寝た状態では足の甲が伸びており、ふくらはぎの筋肉自体が縮んだ状態にあることも関係しているとのことです。

ゆっくりと筋肉を伸ばす

 こむら返りを起こしたときの対処法は「まず、ゆっくり筋肉を伸ばすこと」と齋藤先生は話します。
 「痙攣が起きているときに急いで伸ばそうとすると、筋紡錘、腱紡錘がもっと暴走するので、暴れ馬をなだめすかすように、筋肉が収縮してしまった方向とは反対側にゆっくりと伸ばすようにして下さい。ふくらはぎに起こったときは、手で足先を持って手前にゆっくり引き、ふくらはぎの筋肉を伸ばします。手が届かない人は、タオルなどを使用してもいいでしょう」と齋藤先生(図参照)。
 それでも治まらない場合は、漢方薬の芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)の服用が効果的です。
 「こむら返りと言えば芍薬甘草湯と言われるくらい有名な漢方薬です。服用して5分ほどで効果が表れます。基本、発症してから飲む頓服ですが、毎晩起こる人は、寝る前に予防的に飲むよう指導しています。芍薬甘草湯を服用しても治まらない場合は、お風呂に行って、温水シャワーでつっている患部を温めて下さい。それで大体のこむら返りは収まります。患部を冷やすと逆効果ですので、決して冷やさないようにして下さい」(齋藤先生)。
 ところで、芍薬甘草湯の効能は「急激に起こる筋肉のけいれんを伴う疼痛」で、医療機関で処方してもらうことができます。また、処方箋がなくてもドラッグストアなどでも購入が可能です。

背景に血管や脊髄の病気も

 こむら返りの発症は老化に伴う筋肉量の減少と大きく関係していると書きましたが、週に何度もこむら返りを起こす場合は、背後に重大な病気が隠れていることもあるので注意が必要です。
 大きく分けて下肢静脈瘤や、閉塞性動脈硬化症などの血管の病気、脊柱管狭窄症や椎間板ヘルニアなどの脊髄の病気、糖尿病や腎臓病、肝臓病などの代謝の病気、甲状腺機能低下症や副甲状腺機能低下症などの甲状腺の病気が、こむら返りを起こしやすいと言われています。
 齋藤先生は「血管の病気は血流が悪くなることで、脊髄の病気は脊髄が圧迫されることで坐骨神経に誤作動が起き、こむら返りが起こりやすくなります。代謝の病気は血流の悪化だけではなく電解質異常も起こしやすいです。甲状腺の病気は全身の生体機能に異常を来すため、そのひとつの症状としてこむら返りが起こりやすくなります」と話します。

着圧ソックス着用もお勧め

 ところで、血管外科が専門で下肢静脈瘤の治療を多く手掛ける齋藤先生は、「下肢静脈瘤が原因で起こっているこむら返りは、手術などの治療によってほぼ完全に治すことができます。手術するほどでもない方でも、ふくらはぎの血流を良くする着圧ソックスを着用することでこむら返りがピタッとなくなるケースもあります。足の運動不足などによって血流が滞っている方は是非試してみて下さい」と話しています。