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誤嚥性肺炎予防のポイント 身体の抵抗力、口の中の清潔、口や喉の機能保持
情報誌けあ・ふるVOL.114(2023/1)掲載

医療法人社団研医会
高岡駅南クリニック
院長
塚田 邦夫 先生
高齢者がかかりやすい肺炎。肺炎は患者の約8割が65歳以上の高齢者で、高齢者の肺炎のうち7割以上が誤嚥性肺炎と言われています。誤嚥性肺炎を予防するにはどうしたらいいのでしょうか。日常起きている誤嚥が肺炎を起こす仕組みと、予防のために日常生活で心がけるポイントについて、高岡駅南クリニック院長の塚田邦夫先生にうかがいました。
誤嚥と誤嚥性肺炎の違い
誤嚥性肺炎は、口腔内にもともと存在している菌(常在菌)などが増え、それらを含んだ唾液を気管に飲み込んでしまうことで、肺の中で菌が増殖し起きる肺炎のことです。塚田先生は「飲食物が誤って気管に入ってしまう誤嚥と、誤嚥性肺炎はまったく異なるものです。基本的に飲食物だけの誤嚥で誤嚥性肺炎にはなりにくい」と話します。
唾液の誤嚥は主には寝ている間に気づかずに起きており、「不顕性誤嚥」と呼ばれます。高齢者だけに起きるのではなく、若者にも起きています。しかし、健康な若者や高齢者は誤嚥性肺炎にはなりません。「健康な人は抵抗力があるため菌が肺の中に入っても感染が起きないからです。そのため、誤嚥性肺炎の予防にはまず、抵抗力、免疫力をつけることが大切だと言えます」(塚田先生)。
低栄養状態を防ぎ抵抗力をつける
抵抗力、免疫力をつけるための基本は「低栄養の状態を防ぐこと」だと塚田先生は強調します。
特に高齢者では、年齢を重ねるうちに食べる量が少なくなります。それに加え、一人暮らしなどで食事を面倒に感じたりすると、量だけでなく回数も減り、やがて低栄養の状態に陥ります。さらに運動もしないでいると、フレイル(虚弱)やサルコペニア(加齢により全身の筋肉量と筋力が自然低下し身体能力が低下した状態)に至ります。「そうした状態では抵抗力、免疫力も落ちていますから、菌を含んだ唾液の誤嚥を続けていると、ある時感染が起こり、誤嚥性肺炎を発症するのです」(塚田先生)。
塚田先生は、診察している高齢者に対しては、魚、肉、卵、納豆、豆腐、乳製品などのタンパク質をしっかり取るよう指導。その上で適度な運動も行うようにアドバイスするそうです。そして、栄養状態のチェックには血液検査の血清アルブミン値を主な指標としています。
「血清アルブミン値で3.5〜3.9g/dLが低栄養予備軍、3.5g/dL未満が低栄養とされていますが、私は自分の臨床経験から4.1g/dL以下は危険のサインと考え、適宜栄養指導を行うようにしています」(塚田先生)。
常に清潔な口内環境を保つ
予防のもう一つのポイントは、口の中を清潔に保つこと、すなわち口腔ケアです。口腔内の細菌をできるだけ減らし、常に清潔な口内環境を保つことが誤嚥性肺炎の予防にもつながるからです。
口腔ケアには、歯科医や歯科衛生士など専門家によるケアと、本人、家族、介護者によるセルフケアがあります。家庭でできるセルフケアは、歯ブラシを使って、できれば毎食後、すみずみまできれいに磨くことです。菌が増殖しやすい歯間や舌のブラッシングも大切です。
「口の中をきれいにすると、菌が減る一方で、サブスタンスPと呼ばれる、正常に食べ物を飲み込んだり、咳をしたりできるよう神経に働きかける神経伝達物質が増えます。その結果、嚥下の能力も向上するので一石二鳥の効果が期待できます。また、入れ歯についても注意が必要です。洗浄剤に入れておくだけでなく、普通の歯と同じように入れ歯用歯ブラシで磨き、プラーク(歯垢)などのバイオフィルム(微生物の集合体)をしっかり掃除することが重要です」(塚田先生)。
食べて飲み込む機能を保つ
予防の3つ目のポイントは、口や喉などの食べて飲み込む機能(嚥下機能)を保つことです。誤嚥性肺炎を起こしやすい人の基礎疾患として、脳卒中の後遺症があります。手足の麻痺のみならず嚥下に関わる咽頭の周辺を動かす機能も麻痺してしまい、誤嚥を起こしやすくなり、結果、誤嚥性肺炎のリスクも高まります。
脳卒中などの疾患だけでなく、加齢によっても嚥下機能は低下します。「通常の飲食でむせることが多くなったら、嚥下機能の低下が考えられます。嚥下外来のある医療機関で、嚥下機能の評価をしてもらいましょう。そうした医療機関では、口や喉の筋肉を鍛えるトレーニングの指導も行っています。そうしたトレーニングを実践することも嚥下機能を保つことにつながります」(塚田先生)。
食事を取る際の姿勢も大事
塚田先生は食事を取る際の姿勢も大事だと指摘します。「例えば片麻痺の場合、身体が傾いていると、食事が麻痺側の食道を通るので誤嚥、窒息のリスクが高まります」(塚田先生)。
また、麻痺などのあるなしにかかわらず、高齢者は、姿勢が悪いと食べる量が少なくなるだけでなく、誤嚥も起こしやすくなり、誤嚥性肺炎の発症にもつながります。
「食事を取るときの椅子はとても大切です。膝下の高さが合っていて、肘掛けがあることが必須です。腕の重さは両腕で7キロ近くあって重く、それを載せる肘掛けがあるだけで、姿勢が安定し食べやすくなり、食事も進みます。それがひいては低栄養の予防にもなります」と塚田先生は話しています。