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中高年から気をつけたい男性の排尿障害 前立腺肥大症と過活動膀胱の基礎知識
情報誌けあ・ふるVOL.111(2022/4)掲載

日本大学医学部
泌尿器科学系主任教授
日本大学医学部附属
板橋病院長

髙橋 悟 先生

 中高年になると排尿障害に悩む男性が増えてきます。「おしっこが近い」「おしっこに勢いがない」「突然おしっこがしたくなり我慢できない」など、その症状は様々です。男性が排尿障害を起こす代表的な疾患には、前立腺肥大症と過活動膀胱があります。この2つの病気のメカニズムと診断法、治療法について日本大学医学部泌尿器科学系主任教授の髙橋悟先生にうかがいました。

様々な排尿障害を来す前立腺肥大

 加齢とともに、男性も女性も頻尿などの排尿障害に悩む人が増えていきます。特に男性では、頻尿に加え尿の出が悪くなる人も増えます。
 この男女差について髙橋先生は、「男性には前立腺が尿道の下にあり、加齢とともに肥大し、様々な症状を引き起こします。40歳代から始まり、おおむね年齢と同じパーセントだけ前立腺が肥大した人がいます。症状があり治療が必要な人はその4分の1程度と言われています」と話します。
 なお、尿に関するトラブルは、医学用語で「下部尿路症状」と呼ばれます。下部尿路症状は、「蓄尿症状」「排尿症状」「排尿後症状」の3つに分けられます。 「蓄尿症状」は尿を溜めている時の症状で、「頻尿」や「尿意切迫感」「尿失禁」などが主な症状です。急に起こる尿意切迫感が主症状の過活動膀胱は、この蓄尿症状が顕著な疾患と言えます。「排尿症状」は尿の出の悪さのことで、なかなか出ない「排尿遅延」、切れが悪い「排尿終末滴下」、勢いがない「尿勢低下」などが主な症状です。「排尿後症状」は「残尿感」や、排尿後しばらくしてから漏れ出てくる「排尿後尿滴下」が主な症状となります。 「QOLに影響が出るような蓄尿症状や排尿症状、そして残尿感などの排尿後症状がある人は、前立腺肥大症がその背景にあることが多いです」(髙橋先生)。

肥大症の半分には過活動膀胱も

 前立腺は男性だけにある臓器で、膀胱の下に尿道を取り巻くように位置しています(図1)。前立腺は射精時に精子を保護する成分を含んだ液を分泌するなど、生殖器として重要な役割を果たしています。前立腺が加齢によって肥大すると、尿道が圧迫される状態となり、尿が出にくくなります。また、前立腺は膀胱の下にあるため、肥大すると膀胱を突き上げる形となって、尿意切迫感が生じると考えられています(図2)。
 さらに、尿が出にくい状態でがんばって尿を出そうとするため、徐々に膀胱の壁が厚くなり、結果、血流不足が生じ、尿を溜める、出すという機能に支障を来します。
 前立腺肥大症と過活動膀胱は、それぞれ独立した別の疾患ではありません。 「膀胱の機能障害の初期段階で現れるのが男性の過活動膀胱であると考えれられています。実際、前立腺肥大症の患者さんの約半分は過活動膀胱を伴っていると言われています。機能障害がさらに進むと今度は低活動膀胱になって、膀胱の収縮力が低下します。残尿が増え、尿の出が非常に悪くなり、最悪、尿閉という状態になります」(髙橋先生)。

前立腺肥大症と過活動膀胱の診断

 前立腺肥大症の診断は泌尿器科で行います。その際に用いられるのは、「国際前立腺症状スコア(IPSS)とQOLスコア」(表)です。これらを参考に、尿流測定、残尿測定、超音波検査などから確定診断を行います。その他、排尿時刻と排尿量を記録してもらう「排尿日誌」を用いることもあります。
 「診断の要は超音波検査です。前立腺の体積、すなわち大きさよりも形状が大事です。膀胱が丸い形ではなく、下から前立腺に突き上げられて月が欠けたような形だと、頻尿や排尿症状も強くなります」。一方、過活動膀胱は2002年に国際的に定義された病気で症状によって診断します。その定義は「尿意切迫感を必須の症状とし、通常は頻尿および夜間頻尿を伴う。切迫性尿失禁の有無は問わない」です。
 2002年から2003年にかけて日本で唯一の過活動膀胱に関する大規模調査が行われました。それによると、40歳以上の健康な男女のうち過活動膀胱だと想定される潜在的な患者数は12・4%で、そのうち治療を受けているのは潜在的患者数のわずか8%でした。
 過活動膀胱の診断には「過活動膀胱症状スコア(OABSS)」と呼ばれる質問票が用いられます。「質問票を参考にしながら、同じような症状が出る、細菌性膀胱炎や、間質性膀胱炎、膀胱結石、膀胱がんを除外して診断を下します。男性の場合は、前立腺肥大症に合併するケースも多いので、その診断も必要です」(髙橋先生)。

薬物治療と併行して生活改善を

 前立腺肥大症、過活動膀胱ともに、薬物による治療が中心ですが、薬物治療と並行して、生活改善も大切だと髙橋先生は話します。
 「生活習慣病のある患者さんは前立腺が肥大するという疫学データがあります。つまり、高血圧、高脂血症、糖尿病、肥満自体が前立腺が大きくなるリスク因子なのです」。
 頻尿の人は水分摂取量を抑えることも重要です。「一般的に食事以外に1日1000〜1500 が適切な水分摂取の目安です。また、夜間頻尿の方には、塩分摂取を控えるよう指導します。塩分の取り過ぎは夜間多尿の原因であり、喉も乾くからです。その他、カフェインとアルコールも尿量を増やす利尿作用があるので、これらを控えるよう指導します」(髙橋先生)。

前立腺肥大症と過活動膀胱の薬物療法

 前立腺肥大症の薬物療法は30年ほどの間に大きく進歩しました。 「特に1993年にα1受容体遮断薬が登場してからは、手術を必要とする患者さんは激減しました。その後、様々なタイプのα1受容体遮断薬が開発され、現在も最初に投与される第一選択の薬です」(髙橋先生)。なお、「α」とは交感神経の受容体のことで、そのうち前立腺に多く存在しているのが、α1受容体です。この受容体を遮断することで症状を緩和します。
 その他、最近第一選択薬として使われ始めているのが、PDE5阻害薬です。PDE5阻害薬はそれ自体がED治療薬として使われており(一般名タダラフィル)、服用患者の前立腺肥大症の症状や頻尿が良くなったことから、前立腺肥大にも使われるようになりました。
 α1受容体遮断薬には血圧低下や射精障害などの副作用も報告されています。髙橋先生は「とにかく排尿症状を取りたいという人はα1受容体遮断薬、排尿症状を改善しつつ性的にもアクティブでいたい人はPDE5阻害薬、という使われ方が今の主流です」と話します。
 薬物療法ではその他に、前立腺の体積が大きい(30〜40以上)人が適応となる、5α還元酵素阻害薬という薬もあります。この薬には前立腺を小さくする働きがあります。「各種薬剤の登場で、症状のコントロールが容易になった結果、前立腺肥大症で手術を行うのは尿閉や血尿がひどかったり、膀胱結石がある一部の患者さんだけになりました。なお、PDE5阻害薬の服用には泌尿器科での診断が必要ですので、相談してみて下さい」(髙橋先生)。

 過活動膀胱の治療では、行動療法として、「骨盤底筋訓練(肛門と尿道をぎゅっと締める訓練)」と「膀胱訓練(強い尿意を感じた時に我慢し膀胱に溜める訓練)」をまず指導すると髙橋先生は話します。「骨盤底筋訓練は女性の尿失禁などに有効ですが、男性の過活動膀胱でも効果があります」。
 そうした行動療法をベースとして、男性の場合は、前立腺肥大症がある場合は、α1受容体遮断薬やPDE5阻害薬をまず使用します。ただ、前立腺の肥大がそれほどではなかったり、過活動膀胱の症状が強い場合などは、抗コリン薬かβ3作動薬が使われます。前立腺肥大症の薬と併用する場合もあります。
 抗コリン薬は膀胱の収縮をブロックして排尿を止める薬、β3作動薬は膀胱を緩めて尿を溜めさせる薬です。抗コリン薬は歴史のある薬ですが、口内乾燥や認知機能への影響などの副作用もあり、男性では尿閉のリスクも若干高いと言われています。そのため最近では、高齢の男性にはβ3作動薬が使われるケースが多いそうです。
 「前立腺肥大症や過活動膀胱の治療は地域のかかりつけ医でも対応可能ですが、様々な薬物があり、コントロールが難しいこともあります。困った時は泌尿器科の専門医の診察を受けるようにして下さい」と髙橋先生は話しています。