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気づきにくい爪白癬に注意を 放置すると転倒の原因にも
情報誌けあ・ふるVOL.110(2022/1)掲載

文京学院大学大学院
保健医療科学研究科 教授

藤谷 克己 先生

 「水虫」というと、ジクジクしたり、かゆかったり、かかとや足の裏がカサカサでひび割れして痛くなったりする病気、という印象を持っている人が多いのではないでしょうか。「水虫」には痛みやかゆみを感じにくく、じわじわと進行する爪の水虫「爪白癬」があります。特に高齢者にとっては、爪白癬により爪がもろくなったり脱落したりすると転倒のリスクにつながります。爪白癬の見極め方や予防法、ケアの勘所について、文京学院大学大学院保健医療科学研究科教授の藤谷克己先生にお聞きしました。

高齢者は白癬菌の保有率が高い

水虫の原因は白癬菌(はくせきん)というカビの一種です。疫学調査では、日本人の5人に1人は足指の白癬(いわゆる水虫)があり10人に1人は爪の白癬があるという報告があります。藤谷先生は「白癬菌は皮膚の表面の角層(垢となる部分)に含まれるケラチンという蛋白を栄養源にしていて、足指の周りだけでなく、全身の皮膚のどこにでも病変を作ります。角層が変化した毛や爪にも感染します」と説明します。足白癬は夏に増加しますが、爪白癬は季節的変動がありません。また足白癬、爪白癬は年齢が上がるに従って罹患の頻度が増えます。藤谷先生らの調査では、65歳以上の高齢者の白癬菌の保有率は、65歳未満の人に比べ、約20倍も高いことが分かっています。特に爪白癬は60歳以上の高齢者が多くかかっているとされいす。 
 高齢者に爪白癬が多い理由は、高齢者は寒い時期、寝ている間も靴下を履くなど、1日中足の湿度と温度が高い状態になっていたり、足の清潔が十分に保てなかったりすることが多くなるためです。さらに、高齢者は体を屈めにくかったり、目が見えにくいなどで、適切な爪の手入れをしにくいことも爪白癬になりやすい原因です。
 藤谷先生は「糖尿病などで、血行不良・感覚障害があって、抹消神経が鈍化している場合はリスクがあります」と言います。

爪白癬で踏ん張れないと 高齢者では転倒リスクに

 爪白癬が悪化すると爪が変色、肥厚し、さらに爪がもろくなって脱落することもあります。藤谷先生は「爪には神経が通っていないので、爪白癬は足白癬のようにかゆみや痛みといった自覚しやすい症状が現れません。そのため爪が白癬菌に感染しても初期には気づかずに放置され、適切なケアや治療に結びつきにくく、悪化しやすいのです」と指摘します。
 症状が悪化すると、歩くときに履き物に当たって痛かったり、爪が脱落して足の指を地面にしっかり着けにくくなってバランスを崩しやすくなります。「足指の中でも特に爪白癬になりやすい親指いう結果も報告されています。

爪白癬は生活習慣病 清潔と保湿、爪の手入れが大切

 では、爪白癬はどのように予防すればよいのでしょうか。藤谷先生は「白癬菌はバスマットや寝具など生活環境下では数日から数カ月もしぶとく生きていますが、すぐに皮膚に入り込むわけではありません。白癬菌は水洗いして清潔にするだけで、取り去ることができます。爪白癬はいわば『生活習慣病』です。予防は、清潔、爪切りなどの手入れ、保湿の3つが大事です」とアドバイスします。
 何といっても大切なのが、足を清潔に保つことです。足を洗う際には、足の指と指の間や足裏など、隅々まで洗い流し、その後清潔なタオルなどでしっかり水気を拭き取ります。藤谷先生は「介護を受けている方などで洗い流せない場合には、清潔な水に濡らしたタオルなどで拭き取るだけでも効果があります。なお、白癬菌などのカビ(真菌)の仲間にはアルコールは無効で除菌できません。アルコールを含む除菌ペーパーなどで拭き取るのは、肌の乾燥にもつながり逆効果です」と言います。
 共同のお風呂場などを使用する場合には、バスマットなどに白癬菌が潜んでいるケースもあります。利用した後には、あたらめて清潔なタオルで拭き取る習慣をつけるようにします。また、足を清潔にした後は、新しい靴下に履き替えることも重要です

施設の共用設備にも感染リスク 自宅でも小まめに足のチェックを

 「爪の異変に気づくためにも、適切なタイミングで爪切りをしてください。その際に、爪がパチンと切れなかったり、切り取った爪がボロボロと崩れたり、切った爪の内側が白く厚くなっていたりすれば、爪白癬の可能性があるので皮膚科を受診して検査を受けてください。特に親指は爪白癬になりやすいのでしっかり見るようにしてください」と藤谷先生は注意を促します。
 さらに「白癬菌の栄養源は皮膚の角質です。肌がカサカサしていたり、ザラザラしていると菌が入り込みやすいので、入浴や足のケアの後には、保湿クリームで保護することも大切です」と付け加えます。
 もし、爪白癬になってしまった場合には、塗り薬と飲み薬による治療があります。塗り薬は爪の間に入った白癬菌には十分には効きづらい面があり、主に飲み薬が処方されます。「爪白癬は直接生命を脅かす病気ではありませんが、なかなか手強い相手です。とはいえ必ず完治できる病気です。症状が消えたからといって途中でやめず、気長に治療することが肝心です」(藤谷先生)。
 藤谷先生らの調査では、施設に入所している高齢者のほうが自宅で療養している高齢者より白癬菌の保有率が高い傾向でした。藤谷先生は「爪白癬は、感染の初期には気づきにくいため、施設に入所したときには顕在化せず、その後爪の変色などで爪白癬だと分かることもあります。施設では共用設備などから感染が拡大するリスクがあります。施設でも自宅でも、褥瘡など、皮膚の状態を確認するのと同じように、足の状態を小まめに確認するようにするとよいでしょう」と話しています。