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鉄分不足だけではない貧血の原因 思わぬ病気が隠れていることも
情報誌けあ・ふるVOL.109(2021/10) 掲載

葉山ハートセンター 院長
田中 江里 先生

 倦怠感、息切れ、むくみ、ふらつきなどを感じることはありませんか。これらの症状は貧血のせいかもしれません。貧血というと、鉄分が足りない鉄欠乏性貧血がよく知られていますが、貧血の原因はそればかりではありません。とくに高齢者は様々な原因で貧血を起こします。中には思わぬ重い病気が隠れていることもあります。貧血の原因や症状の特徴、対処法などについて、葉山ハートセンター院長の田中江里先生にお聞きしました。

貧血の原因は一つとは限らない

 貧血とは、血液中の赤血球やヘモグロビン(血色素)の値が低い状態のことをいいます。赤血球は体の隅々に酸素を運ぶ働きをしているため、貧血になると、息切れや倦怠感、むくみなどの症状が起こります。「加齢とともに赤血球をつくる力が低下するため、高齢者では貧血が起こりやすくなります。また、高齢者の貧血の特徴は、その原因が一つとは限らないことです。様々な原因が複合的に影響することも多く、中にはがんなどの命に関わる病気が原因になることもあるので注意が必要です」と田中先生は指摘します。

まず注意したい栄養不足

 田中先生は高齢者の貧血の主な原因として、栄養障害、炎症、がんなどの病気、薬の影響、の4つを挙げます(表)。高齢になると食が細くなるとともに、栄養素の吸収も悪くなり、鉄やビタミンB12、葉酸といった赤血球をつくるために必要な栄養素が十分に取れず、栄養障害による貧血を起こします。また、「筋力が低下すると体を動かすことが少なくなり、お腹も空かないためにさらに栄養が取れないという悪循環にもなります。筋肉を維持するためにはたんぱく質もしっかり取る必要があります」(田中先生)。

がんや病気の影響で貧血に

 「高齢者に多い誤嚥性肺炎や、尿路感染症、関節リウマチ、関節炎、褥瘡など、体の中で慢性の炎症が起きていると、貧血を起こしやすくなります。炎症が貧血の原因になるのは、炎症に伴って体内に出てくる炎症物質(サイトカイン)が、鉄分の吸収を妨げてしまうからです」(田中先生)。高齢者では「がんなどの病気」も貧血の大きな原因になります。がん組織からの出血やがんに伴う炎症が引き金となります。
 またがん以外にも、貧血を起こしやすい病気には慢性腎臓病などの腎臓の病気があります。腎臓でつくられるエリスロポエチンというホルモンは赤血球をつくる働きを促していますが、腎機能が低下するとエリスロポエチンの分泌が減って赤血球がつくられにくくなるため、「腎性貧血」になります。さらに、血液細胞は骨の中の骨髄でつくられていますが、高齢者では、この骨髄で正常な赤血球や白血球などの血液細胞がつくれなくなって貧血を起こすことがあります。

多種類の薬を飲んでいるのも 貧血のリスク 変化に気づいたら迷わず検査を

 「高齢者は多種類の薬を常用することが多く、これも貧血を起こすリスクを高めています」と田中先生。
 例えば血液をサラサラにする抗凝固薬や抗血小板薬などは、出血を起こしやすくする薬です。排便の際に肛門が切れたり、体をぶつけたりと、ちょっとしたことが出血につながります。関節痛などの痛みを和らげる非ステロイド性消炎鎮痛薬も服用中は出血しやすくなるので注意が必要です。
 田中先生は「高齢者になると数種類の薬を飲んでいる人が多く、その数が多くなると腎臓の機能の低下につながり、腎性貧血のリスクが高まります」と注意を促します。高齢者の貧血は、一つだけでなく、いくつかの原因を併せ持つことが多いため、貧血に隠れている様々な病気を見逃さないためにも、まずは貧血に気づくことが大切です。
 だるい、動いた時に呼吸が荒くなるなどの症状があれば貧血の可能性があります。ただし高齢者の場合、自分では貧血の症状に気づかないこともあります。家族や介護者が本人の様子を観察するのも重要です。
 貧血に気づくポイントは、以前に比べて顔や足がむくんだ、息切れするようになった、動きが鈍くなった、判断力が弱くなった、といった変化です。貧血が疑われる時には医療機関で血液検査を受けましょう。全血算(CBC)という検査で血球数やヘモグロビン濃度など、貧血に関する異常がわかります。田中先生は「高齢になると、誰しもヘモグロビン濃度の値などは低くなるものなので、1回の検査数値だけで一喜一憂しないことが大切です。半年に1回程度は継続的に検査して、検査数値の推移をみる必要があります」と言います。
 骨髄検査や内視鏡検査など、さらに精密な検査が緊急に必要になるケースもあります。それは「血液検査で赤血球数だけでなく白血球や血小板の数値にも異常がある場合や、腎機能の数値にも異常がある、便の色が黒い、痛みがあるなどの場合には、重い病気が隠れている可能性があるからです」(田中先生)。

十分な栄養を取って孤食を避ける

 高齢者の貧血の予防は難しい面もありますが、栄養障害による貧血はある程度は防ぐことができます。鉄やビタミンB12などの血液をつくるために必要な栄養素を含む、赤身の肉やレバー、魚などをバランス良く取るようにします。田中先生は「筋力が落ちて噛む力が弱ければ、魚をやわらかく煮たものを汁ごと、あるいはミンチにした肉、レバーペーストなどがいいでしょう。また、一人では食が進まず、結果として摂取量が少なくなってしまいます。家族や周囲の人と食べるのがおすすめです」と言います。「高齢者の貧血はその原因の見極めが重要です。貧血が疑われる症状に気づいたら、早めに医療機関を受診して、経過をよく診てもらってください」と田中先生は助言しています。