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抗菌薬で炎症を鎮めた後の待機的手術が主流に 「急にお腹が痛くなる」虫垂炎の最新事情
情報誌けあ・ふるVOL.109(2021/10) 掲載

平塚胃腸病院 副院長
佐藤 健 先生

平塚胃腸病院 外科部長
飛田 浩司 先生

 急にお腹が痛くなる「急性腹症」のなかでも頻度の高い虫垂炎。一般には「盲腸」「盲腸炎」とも呼ばれています。虫垂炎患者の約半数は典型的な症状を示さず、悪化してから診断されるケースも少なくありません。治療はかつては診断後すぐの開腹手術が主流でしたが、最近では抗菌薬でまず炎症を抑えた後、日数を置いてから腹腔鏡手術によって虫垂を摘出する方法が主流になってきました。虫垂炎の最新事情について、平塚胃腸病院副院長の佐藤健先生と、外科部長の飛田浩司先生にうかがいました。

虫垂で細菌が増殖し発症

 虫垂は大腸の一番奥の盲腸という部分にある細長い袋状の臓器で、右下腹部に位置しています図1参照)。太さは4〜5㎜、長さは5~8㎝程度です。
 この臓器が様々な原因により炎症を起こし、痛みや発熱などの症状が出るのが虫垂炎です。日本人の約7%が罹患すると言われています。炎症が重症化し虫垂が破れたりすると腹膜炎を起こし、命に関わることもあるので注意が必要です。
 「虫垂炎は、虫垂で細菌が増殖し化膿性の炎症が生じている病態です。糞石と呼ばれる固くなった便の塊が虫垂に詰まることで発症するケースもあります。便秘や胃腸炎、日常生活の不摂生、風邪や過労などがきっかけになるとも言われていますが、多くは原因不明です」(飛田先生)。
 発症年齢は国内では20代〜30代が多いとされています。平塚胃腸病院の場合、平均年齢は39歳(直近5年間92例の平均)、最高齢は78歳とのことです。虫垂炎の典型的な症状は、腹痛、発熱(37℃〜38℃)、吐き気、嘔吐、食欲低下、下痢などです。「腹痛は、患者さんの中には『過去に経験したことのないお腹の痛み』と話す方もおられます。発症初期はおへその周りや心窩部(みぞおち)付近が突然痛くなり、時間の経過とともに徐々に右下腹部、虫垂がある位置に移動していくことが多いと言われています。ただ、そうした典型的な経過をたどらないケースもあるので、患者さんご自身で診断を下すのは難しいと言えます。また、高齢者の場合は、痛みや発熱などの症状が表れにくく、自覚症状も乏しいので、早めの受診が必要です」(飛田先生)。

触診、血液検査、画像診断

 医療機関での診断は、触診、血液検査、画像診断などを組み合わせ、総合的に行います。触診では右下腹部を押さえた時に感じる痛み、腹部を押さえてから素早く手を離した時に感じる痛み( 反跳痛)などを確認します。痛みが心窩部付近から右下腹部へ時間とともに移動しているかどうかも問診で聞きます。
 血液検査については、体内の炎症の状態を見るために白血球数やCRP値(炎症性蛋白質)を参考にします。これらの所見から虫垂炎を疑った上で、画像診断を行います。
 「画像診断は基本的に、超音波検査、CT検査を行います。最近の超音波検査は解像度が上がっていますので、超音波だけで診断がつくことも多いです。超音波検査では、虫垂の腫れや炎症に伴う滲出液の存在を確認します」( 佐藤先生)。

抗菌薬で虫垂の腫れをまず抑える

 虫垂炎と言えば、かつては緊急手術の適応で、開腹し虫垂切除を行うのが主流でした。しかし、最近では炎症を鎮める抗菌薬の進歩で、治療法も大きく変わってきています。 「昔は重症化して腹膜炎にならないよう、すぐに開腹して虫垂を切除するのが当り前でした。それが今では、重度の虫垂炎や腹膜炎を起こした虫垂炎以外はまず抗菌薬で治療するというのが定石です。虫垂を摘出する場合も、炎症を十分に抑えて、虫垂の腫れが引いてから手術を行う待機的虫垂切除術という手法がこの6〜7年の間に主流となってきています」(佐藤先生)。
 入院期間は、通常の抗菌薬治療の場合、1週間〜10日程度。待機的虫垂切除術を行う場合は、症状が完全になくなった後、1〜2カ月後に再入院して行います。
 なお、いったん抗菌薬で治療した後、すべての患者が待機的虫垂切除術を受けるわけではありません。
 「1度抗菌薬で抑えても2〜3割の方は再発します。再発でも抗菌薬治療を選択する場合は多いです。ただ、何度も再発する方には虫垂切除を勧めます。また、初回の発症でも再発を嫌う方は待機的虫垂切除術を受ける場合もあります。当院の場合、全体として、抗菌薬治療の後、虫垂切除術を受ける方は3割くらいです」(飛田先生)

待機的手術は腹腔鏡手術で

 手術法も格段に進歩しています。かつては、お腹を完全に開く開腹手術が中心でした。その後、おへその穴に加え、お腹に2つの穴を開けて行う3孔式の腹腔鏡手術が普及、入院期間も短縮化されました。そして現在では、おへその穴1カ所だけを用いる単孔式の腹腔鏡手術が普及し始めています(図2)。
 「抗菌薬で炎症を抑えた虫垂は小さくなっているので、手術もしやすいし、合併症の心配も少ないです。単孔式は、おへその穴にポートと呼ばれる器具を装着し、それを通してカメラや手術機器を挿入して手術を行います。3孔式よりも手技に難しさはあるのですが、虫垂の炎症も治まり小さくなっているので、単孔式であっても比較的容易に摘出することができます。重症で緊急手術の場合は開腹手術、待機的虫垂切除術の場合は単孔式腹腔鏡手術、というのが現在の当院の基本的な方針となっています」(佐藤先生)。
 単孔式の場合は、3孔式よりも患者への負担は小さくなり、入院期間は4日程度で済むとのことです。「もともと炎症のない虫垂を切除するわけですから、術後の治療は切除部分とおへその穴の傷のケアだけです。そういった意味でも、待機的虫垂切除術は患者さんに負担の少ない、安全な方法だと言えます」(飛田先生)。
 ちなみに、平塚胃腸病院では、2004年から虫垂切除に3孔式腹腔鏡手術を導入、2012年からは単孔式腹腔鏡手術をメインに行っています。2012年から現在までに、129例の虫垂炎を単孔式腹腔鏡手術で治療したとのことです。

コロナ禍で虫垂炎は増えている

 虫垂炎と診断されても、別の疾患である場合もあります。「頻度的には少ないですが、虫垂粘液腫や虫垂がんなどには注意が必要です。虫垂粘液腫は虫垂の中に粘液がたまって嚢胞(のうほう)を作って腫れた状態のものです。破裂すると腹腔内に散らばっていろいろな場所で再発するので、破裂しないように切除することが重要です。虫垂がんはとても頻度が低い病気ですが、見落としてはいけないので、切除した虫垂は、必ず病理検査をしてがん細胞の有無を確認するようにしています」(飛田先生)。
 平塚胃腸病院では、コロナ禍で虫垂炎患者が微増傾向にあるそうです。「新型コロナウイルス感染症の感染拡大後は、当院の虫垂炎患者も増えています。外出制限やテレワークなどで、人々の生活様式も大きく変わりました。座った生活が増えたことや、運動不足、食生活の変化などが、便通をはじめとする腸の働きにも何らかの影響を与えているのかもしれません」と佐藤先生は話しています。