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目の前にもやもやが浮かんで見える「飛蚊症」 急に増えたり視野が欠けたら眼科受診を
情報誌けあ・ふるVOL.108(2021/7) 掲載

東京医科歯科大学眼科学教室
講師

鴨居功樹 先生

 目の前に糸くずや虫のようなものがぼんやりと浮いて見えることがありませんか。それは「飛蚊症(ひぶんしょう)」と呼ばれる症状で、多くの場合、治療の必要はありません。ただし、急に浮遊物の数が増えて見えたり、視野が欠けるなどの症状を伴う場合は、網膜剥離など失明につながる病気が隠れていることもあるので要注意です。治療の必要はない飛蚊症と危険な飛蚊症の見極め方や対処法などについて、東京医科歯科大学眼科学教室の鴨居功樹先生にお聞きしました。

誰もが経験する「飛蚊症」 正体は硝子体の中の濁り

 飛蚊症は、視線を動かすと浮遊物も一緒に動き、まばたきをしても消えないものの、暗いところでは気にならないのが特徴です。「眼球の内部は、無色透明のゼリー状のもので満たされていて、硝子体(しょうしたい)と呼ばれています(図)。角膜と水晶体(カメラのレンズにあたるもの)を通して入った光は、硝子体を通過して網膜に届き、物が見えます。本来透明である硝子体に、さまざまな原因でわずかな濁りが生じることがあります。するとその濁りの影が網膜に映り、目の前に糸くずなどが浮かんで見えるようになります。飛蚊症の正体は、硝子体の中の濁りというわけです」と鴨居先生は説明します。

飛蚊症の多くは心配無用 加齢で出現しやすく

 飛蚊症は年齢によらず起こります。飛蚊症には「生理的なもの」と「病気が原因で起こるもの」がありますが、多くは健康な目に起こる生理的な現象です。
 高齢者の場合、飛蚊症の最も多い原因が後部硝子体剥離です。年をとると硝子体は徐々に収縮して、しだいに硝子体が網膜から剥がれていき(後部硝子体剥離)、それが硝子体の濁りの原因になります。また強度の近視の人は、眼球の奥行きが長いために比較的早い年代から後部硝子体剥離が起きやすい傾向があります。「後部硝子体剥離は加齢とともに目に起こる現象です。後部硝子体剥離のために起きている飛蚊症も病気ではないので、飛蚊症の症状自体は治療の対象ではありません」(鴨居先生)。

浮遊物の見え方が変わったり 数が増えたときは要受診

 一方、飛蚊症は目の病気を知らせるサインになることもあります。 硝子体が収縮して網膜が引っ張られたり、その他の原因で網膜に穴(孔)が開いてしまうことがあります(網膜裂孔)。後部硝子体剥離がある人の6〜19%で網膜裂孔が起こるとされています。
 放置すると穴が開いたところから網膜が剥離(網膜剥離)して硝子体のほうへ浮き出すことがあります。網膜剥離は失明に至る危険な症状です。「失明につながるような網膜剥離を防ぐには網膜裂孔の段階での早期発見がたいへん重要です。網膜裂孔は急に起こるので、自分自身で気づくことが早期発見のポイントです。飛蚊症で見えているもやもやした浮遊物の見え方が変わった、目の前に見える浮遊物が急に増えた、視野の一部が欠けたといった症状が出現したら、網膜裂孔や網膜剥離が起きているかもしれません。すぐに眼科を受診して、眼底検査を受けてください」と鴨居先生はアドバイスします。眼底検査で網膜裂孔が見つかった場合には、網膜剥離を防ぐため、レーザー光で網膜の穴を塞ぐレーザー光凝固治療を行います。

ぶどう膜炎でも浮遊物が増加 目のかすみや視力の低下を伴う

 目の病気が原因で起こる飛蚊症もいくつかあります。多く見られるのが「ぶどう膜炎」が原因のものです。ぶどう膜は虹彩、毛様体、脈絡膜の総称です(図)。目に細菌などが感染したり、アレルギー反応などにより炎症が起こると、血管が多いぶどう膜から炎症細胞などが硝子体に入り込んで濁り、飛蚊症を起こします。「ぶどう膜炎の主な症状は目のかすみや視力低下ですが、炎症が強くなると飛蚊症で見える浮遊物が増加します」と鴨居先生。
 ぶどう膜炎は、ベーチェット病などの自己免疫疾患の人が罹りやすいことが分かっています。「治療は、免疫の働きを抑えて炎症を抑えるステロイドの点眼薬のほか、体の状態に合わせた薬物を使います」(鴨居先生)。
 網膜の血管が破れて眼底出血を起こし、血液が硝子体の中に入る「硝子体出血」も飛蚊症の原因になります。硝子体出血を起こす要因はいくつかあります。その一つが糖尿病です。糖尿病の人は網膜にもろい血管ができやすく、そこから出血します。また、血圧が高い高齢者では網膜の静脈が詰まる網膜静脈閉塞症を起こしやすことが分かっています。閉塞が起きると周囲に新たに脆弱な血管ができて眼底出血を起こしやすくなります。「これらの病状に対しては、眼底検査を行い、脆弱な血管ができる前にレーザーで固める治療を行います。飛蚊症の背景に糖尿病や高血圧といった生活習慣病による眼底出血などが隠れている場合には、まず生活習慣病の治療・コントロールが必要です」と鴨居先生は話しています。

危険の兆候はセルフチェックで 経過に注意して上手に付き合い

 目の重大な病気の早期発見のためにも、飛蚊症がある人は、定期的に自分の見え方をチェックしておくことが大切です。セルフチェックの方法を鴨居先生は次のように説明します。
 「白い壁などを見て、片目ずつ見え方を確認しましょう。見えてくる浮遊物が増えていないか、見え方に変調はないか。月に1度ほど確かめてみるとよいでしょう。飛蚊症の大半は病気ではないので心配は要りません。少し煩わしいかもしれませんが、経過に気をつけて、上手に付き合ってください」