知る・学ぶ

医療・介護トピックス

医療
全身疾患や認知症の予防効果に期待 歯周病菌を減らす口腔ケア
情報誌けあ・ふるVOL.106(2021/1) 掲載

鶴見大学歯学部
探索歯学講座 教授


花田 信弘 先生

 歯を失う最大の原因として知られる歯周病。この歯周病が糖尿病や心臓病のような全身疾患だけでなく、アルツハイマー型認知症にも影響することが、医学的・歯学的研究によって明らかになってきました。さらに歯周病と全身疾患がどのように作用し合うかを検証するメカニズムの解明も進んでいます。そのため、歯周病対策としての口腔ケアの重要性がますます高まっています。歯周病菌の作用と歯周病菌を減らす効果的な方法について、鶴見大学歯学部探索歯学講座教授の花田信弘先生にうかがいました。

むし歯がなくても 歯周病は進行 歯周病とさまざまな疾患の 関連が明らかに

 自分の歯で食べられないことが高齢者のケアで大きな問題になっています。
 歯を失う最大の原因は歯周病です。口腔内で増殖した歯周病菌が歯肉(歯周組織)を侵し、歯周ポケットを作り、歯を支える歯槽骨に到達すると、この骨を溶かしてしまいます。すると、歯がぐらつきやがて抜け落ちてしまいます。
 「ちょうど太平洋戦争をくぐり抜けた世代で、現在90〜100歳ぐらいの方は、砂糖があまりなかった時代に青春期を過ごしたので、むし歯はほとんどありません。しかし、この世代は55歳前後で5本も6本も抜歯しなければならない例が少なからずありました。原因は歯周病です」(花田先生)。
 1989年から厚生省(当時)と日本歯科医師会が「80歳になっても歯を20本以上残そう」を目標に掲げた8020運動を推進した効果もあり、短期間に歯を何本も抜かなければならないようなケースを減らすことができました。「自分の歯で食べられる」という課題は、口腔ケアによって解決の目途が立ちつつあります。
 しかし歯を失うほど重症化する前でも歯周病が健康に悪影響をおよぼすことがわかってきました。
 さまざまな医学的・歯学的研究が歯周病と全身疾患の関係性をあぶり出しています(表1)。
 例えば、歯周病に罹っていると糖尿病にも罹っている症例が見られます。マグネシウム不足など両者を進行させる共通要因が存在するため、このような相関関係が成立するのです。
歯周病と糖尿病の間には一方が原因となり他方を悪化させるという双方向の因果関係もあります。つまり、歯周病が悪化すると糖尿病が悪化し、糖尿病が悪化すると歯周病が悪化します。そのため歯周病が改善すると血糖値が下がり、血糖値を安定させると歯周病が改善するという効果が見込めます。
 歯周病とこういった関係にある疾患は糖尿病だけでなく、心臓病に代表される循環器系疾患など、さまざまあります。

酵素、毒素、膜小胞で 歯周病菌は悪さをする

 歯周病の原因菌の1つである「ポルフィロモナス・ジンジバリス(Pジンジバリス)」を例に、歯周病菌がどのように体や組織、細胞に作用するかを見ていきます(表2)。
 この菌の表面には、タンパク質を分解する酵素「ジンジパイン」が付着しています。この酵素を使って歯肉の細胞を溶かして、歯周組織の中に入り込みます。その結果、歯周ポケットが生じます。この菌は酸素を嫌うので歯周組織の奥へ奥へと侵入し、歯槽骨に到達すると骨を溶かしてしまいます。 Pジンジバリスが作るアミノ酸を変換する酵素「ペプチジルアルギニンデイミナーゼ」はタンパク質中のアミノ酸「アルギニン」を「シトルリン」に変えてしまいます。するとこのタンパク質は性質が変わって抗原になり免疫系の異常を引き起こします。
 Pジンジバリスは糖脂質「リポ多糖(LPS)」という毒素を生み出します。この毒素は細胞を刺激して炎症を起こします。歯周病で歯肉が腫れるのはこのためです。
 さらにPジンジバリスは膜で包まれた袋(膜小胞)「アウター・メンブラン・ベシクル」を放出します。この膜小胞は細菌の約体積の約1000分の1と小さく、先に示した酵素や毒素を内抱して移動し、タンパク質分解酵素で細胞を溶かしながら組織内に入り込んでいきます。

アルツハイマー型認知症に 影響を与える歯周病菌

 この膜小胞は脳内まで侵入します。本来、栄養素など脳が必要としている物質以外は、血液脳関門というバリアによって遮断されて脳内には入れません。
 しかし、アルツハイマー型認知症の方の海馬(記憶などに関わる脳の器官)からPジンジバリスのタンパク質分解酵素が検出されたのです。また、アルツハイマー型認知症の患者の脳に蓄積しているアミロイドβやタウタンパクにこのタンパク質分解酵素が結合していました。
 さらに、Pジンジバリスの毒素も見つかりました。この毒素は炎症を起こすほか、アミロイドβを増殖させることも、最近発表されました。これらのことから、歯周病菌の駆除にはアルツハイマー型認知症の予防効果が期待されています。

栄養バランス不良によって 若者でも進行する歯周病

 「成人の40〜50%は歯周病菌Pジンジバリスを保菌していると見られています。若い頃は免疫力によって歯周病菌の増殖を抑え込めても、加齢とともに免疫力が落ちてしまうと歯周病が悪化しやすくなります。しかし、若い人でも歯周病が悪化するケースがあります」と、花田先生。
 「実家から独立してひとり暮らしを始めると、摂取する栄養のバランスが崩れやすくなります。すると免疫力が低下するだけでなく、歯周を含めた組織や骨の再生力も弱まります。若くても歯周病が進行することがあるため栄養管理は重要で、管理栄養士による指導を行う歯科診療所も増え始めています」(花田先生)。

セルフケアの歯磨きと 早めのPMTCが有効

 加齢により免疫力が低下したら、その免疫レベルで対応できる菌数まで口腔ケアで歯周病菌を減らさなければなりません。その方法は歯磨きと舌磨きによるセルフケアと歯科診療所で受けるPMTC(プロフェッショナル・メカニカル・ティース・クリーニング)です(図)。
 口内細菌が栄養にする食べかすや細菌が集まった歯垢(プラーク)を歯ブラシやデンタルフロス、歯間ブラシで歯面から掻き落とし、仕上げに洗口して落とした細菌を吐き出します。「歯周病菌などの細菌は舌の上でも増殖します。朝起きたらまず舌を傷つけないように軟らかい専用器具を使って舌磨きしてください。歯磨きは食事の後でも構いません」(花田先生)。
 歯の表面はブラシがきちんと当たっていれば歯ブラシを水平にして磨いても構いません。しかし歯の裏側は水平だとブラシの中央部が歯に当たりにくいので、歯ブラシを垂直にして1本1本磨くようにすると磨き残しを減らせます。
 磨き残したプラークは石灰化して歯石になり、その周りにプラークが付きやすくなります。歯石は歯磨きで落とせないので半年から1年ごとに歯科診療所で削り落としてもらいます。
 このとき、歯より硬い金属製の器具を使うので歯を傷めてしまいます。これを防ぐためには、スウェーデンで生まれたPMTCお薦めです。これは歯科医や歯科衛生士が歯より軟らかいプラスチックやラバーを使った器具で歯面を清掃する処置です。プラークが歯石になってしまうとこの器具では落とせないので、1、2カ月に1度の頻度で歯科診療所を受診するとよいでしょう。
 「歯周病菌のPジンジバリスを完全に滅菌する3DSという治療法がありますが、まだ保険適用されていないので高価です。まずはセルフケアの歯磨きと定期的なPMTCの受診とともに、免疫力を落とさないようにバランスの良い食事を心がけて、歯周病を進行させないように努めてください」と花田先生はアドバイスします。