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気象の変化で症状が出る天気痛
情報誌けあ・ふるVOL.106(2021/1) 掲載

愛知医科大学 医学部 客員教授
中部大学 生命健康科学部 教授

佐藤 純 先生

発症前の対処に予報も活用

 台風が近づくと頭痛がひどくなる、雨が降ると関節が痛い、梅雨時はだるくて動くのが億劫になるという人は少なくありません。主に気圧の変化が引き起こすこれらの症状は「気象病」あるいは「天気痛」と呼ばれ、予想外に多くの人がこの症状を抱えていると考えられています。30年以上にわたり、気象と痛み、自律神経との関係を研究し、愛知医科大学病院で気象病外来・天気痛外来を開設している佐藤純先生に、天気痛とは何か、また、その予防法や対処法についてお聞きしました。

天気の変化で痛みが悪化 予想外に多い天気痛経験者

 「“天気痛”とは、天気が悪くなると痛みが悪化したり、寒暖差で不調が起こることを言います。天気痛という言葉は耳慣れないかもしれませんが、実は意外に多くの人が経験しているのです」と佐藤先生は言います。
 2015年に愛知県尾張旭市で行った住民アンケート調査では、回答があった2628人中、片頭痛や生理痛以外で体のどこかに3カ月以上続く慢性の痛みがある人は約39%。その中で天気が悪い時に痛みが悪化する人は25%あり、天気痛の人は全体の約9%になることが分かりました。「これを日本の人口に当てはめると、一千万人以上の人が天気痛を抱えているとみられます。さらに、この調査の対象には片頭痛の人や10歳代の若年者が含まれていないので、実際の天気痛に悩む人はさらに多いと考えられます」(佐藤先生)。

気圧変化による 自律神経失調が主因

 なぜ天気痛になるのでしょうか。佐藤先生は「天気痛の大きな要因は気圧です。天気痛の人は、気圧の変化による刺激がストレスとなり、脳が過剰に反応し、交感神経の働きが高まり自律神経のバランスが崩れます。その結果、緊張や血管の収縮などを招き、痛みを強く感じるようになります」と説明しています。
 天気痛の症状は様々です。代表的なのが、片頭痛や緊張型頭痛などの慢性痛の悪化、肩や首、膝、腰の痛み、めまい、倦怠感、抑うつ症状などです。佐藤先生によれば、「愛知医科大学病院の気象病外来・天気痛外来を受診する患者さんの7割以上は頭、肩、首の痛みを訴えています。患者さんは10歳代から80歳代までいますが、特徴は、女性が7割を占め、平均年齢が約41歳と若いこと」とのことです。
 自分も天気痛では?と思う人は、表のチェックリストを試してみてください。当てはまる項目が多いほど要注意です。耳の奥(内耳)に気圧を感じるセンサーがあると考えられ、日ごろからめまいや耳鳴りを起こしやすい人、乗り物酔いをしやすい人などは、このセンサーが過敏で天気痛を起こしやすい可能性があります。

診断には「痛み日記」 痛みが出るパターンを知る

 天気痛の症状は、我慢できる程度の人もいれば、家事や仕事が手につかないほどの症状に悩まされる人もいます。体調変化に対する不安や恐怖心など、心理的な要素が強く関わり悪化を招くのもこの病気の特徴です。いつ痛みが襲ってくるか分からないから友人との旅行も約束できない、台風が来るという予報を見るだけで体調が悪くなるという人もいます。
 佐藤先生が天気痛の診断と治療に最も有力なツールだと言うのが「痛み日記」です。痛み日記には、その日の天気、気圧の変化、痛みの強さ、薬の服用やその日の行動、症状や症状が出たタイミング、運動の有無、睡眠の具合を記します。1カ月ほど続けると、体調と天気がどう連動しているかが分かります。
 画像診断などで他の重篤な病気でないことを確認したら、治療に入ります。「痛み日記」で天気痛が出るパターンやタイミングが予測できるので、気圧の変化に応じて一番効果的なタイミングで事前に薬を飲み、痛みや不調を防ぎます。
 「天気痛に効果があるのは、抗めまい薬や漢方薬など。その人にどの薬が合うかを試しながら使っていきます。漢方薬の代表は五苓散など、内耳の血液循環を良くするものです。気圧への過剰な反応を抑える効果があります。乗り物酔い止めの市販薬も効果があります。薬のほかに、自律神経を整えるための規則正しい生活や十分な睡眠、適度な運動も大切です」(佐藤先生)。

天気痛予報で事前に対処 介護の場面でも活用を

 天気痛治療で肝心なのは、症状が出る前に対処できるようにすることです。それにより、「天気が悪くなっても大丈夫」と思えるようになり、それも軽快の大きな要因になります。
 佐藤先生は、気象情報会社と連携して「全国の天気痛予報」(https://weathernews.jp/s/pain/)を毎日発信しています。全国の地域毎に気圧の変化などから天気痛の発症リスクを「安心」「やや注意」「注意」「警戒」の4段階で示します。薬を飲むタイミングや、旅行などでの対処にも活用できます。
 天気痛は、介護を受けている人の体調や認知機能に影響することも少なくありません。天気痛による体調の不良で介護がしづらくなることもあります。佐藤先生は「天気痛予報を、ご自身の体調の管理だけでなく、介護の場面の対処にも活かしてほしい」と話しています。