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大人の麻しん・風しんはワクチンでストップを
情報誌けあ・ふるVOL.103(2020/5) 掲載

すがやこどもクリニック院長
特定非営利活動法人
「VPDを知って、子どもを守ろうの会」理事長

菅谷 明則 先生

もう一つの対ウイルス戦線

 新型コロナウイルスが猛威をふるっています。その一方で、いま特に注意が喚起されている感染症が麻しん(はしか)と風しんです。どちらも非常に感染力が強いウイルスによる感染症で世界的な流行が起きています。麻しんも風しんも根本治療薬はなく、発症したら対症療法しかありません。しかしどちらもワクチン接種で予防できるところが新型コロナウイルスとは決定的に違います。進行中の麻しん・風しん対策を、NPO法人「VPDを知って、子どもを守ろうの会」理事長で、すがやこどもクリニック院長の菅谷明則先生にお聞きしました。

麻しんと風しんに要注意 海外でも流行が続く

 新型コロナウイルスが世界を席巻する中で見落とされがちですが、実は、麻しんと風しんの世界的な流行が懸念され、WHO(世界保健機関)などが対策の強化を呼びかけています。菅谷先生は「日本でも2019年前半に麻しんが多く発生しました。その後、患者の発生は落ち着きを見せていますが、決して安心できません。なぜなら麻しんは国内での新規患者は出ていませんが、海外で感染した人が持ち込む“輸入感染例”の影響を受けやすくなっているからです。
 風しんは2013年に国内で大流行して以降、患者数は減少していたのですが、2018年からまた患者が増えていす。抗体保有率が低く感染しやすい特定の年代があることが分かっていて、この人たちにワクチンを接種して抗体保有率をめることが喫緊の課題です」と言います。 
 そして「現在、日本で使われている麻しんワクチンと風しんワクチンを混合した『MR(麻しん風しん)ワクチン』は、安全で、有効性が高いワクチンです。自分が発症しないために、人にうつさないためにもワクチンを接種して確実に予防していただきたい」と、菅谷先生は強く訴えます。

超強力な麻しんウイルス 止まらない輸入感染例

 麻しんは空気感染し、新型コロナウイルスなどよりも格段に強い感染力を持っています。小児でも重症化して脳炎などを起こすことがありますが、特に大人は重症化しやすく、致死率が非常に高い危険な感染症です。
 日本は2008年に1万人を超す患者が発生して以降、ワクチン対策を強化した結果、2015年には国内で新規の麻しんの感染が出ていない国として、WHO(世界保健機関)から「麻しん排除国」の認定を受けました。「しかし、それは日本国内からウイルスが排除されたということで、麻しんウイルスが地球上から根絶されたわけではありません。その後も、海外で感染した患者に端を発した国内での感染拡大が散発的に発生しています」(菅谷先生)。2019年には744人の患者が報告されました(図1)。
 国立感染症研究所では毎年麻しんの抗体保有状況を調査していますが、現在、日本人の95%以上は麻しんの抗体を保有しています。 
 1歳以上の小児は1〜2回のMRワクチンの定期接種の機会があり、抗体保有率は非常に高くになっています。麻しんの多くは、ワクチン未接種または1回しか接種していない大人に発症しています。
 2018年以降、麻しんは世界中で流行が拡大しています。、WHOは2018年には970万人以上が麻しんを発症し、14万人以上がなくなったと推測しています。流行の中心は発展途上国ですが、先進国でもワクチン接種を受けていない集団を中心に流行が拡大しています。米国は2000年に麻しん排除を達成していますが、2019年は1282例が報告され、1992年以降では最大となっています。また、新型コロナウイルス感染症の流行で、発展途上国では麻しんワクチンが接種できない状況になっており、1億人以上の子どもが未接種となる可能性が指摘され、今後の流行拡大が危惧されています。

風しん患者は2000人超 男性成人の抗体保有に落とし穴

 一方、風しんも感染力はたいへん強く、症状の出ない人も他の人にうつす可能性があります。多くは重症化しませんが、大人が風しんになると脳炎や血小板減少性紫斑病などを合併する割合が増加します。
 最も重大な点は、妊娠初期の女性が感染した場合、難聴や白内障、心臓病などの障害を持った先天性風しん症候群の赤ちゃんが生まれる危険性があることです。
 日本では、風しんは2012~13年の大流行の後、2018年から再流行しています。国内での風しんの発生報告数は、2018年は2946人、2019年も2306人を数えています(図2)。今回の流行では、現在までに先天性風しん症候群も5人発生しました。菅谷先生はこう語ります。「風しんワクチンは、中学生女子に対してだけ定期接種が行われていた時代がありました。現在の流行は、この期間にワクチンの接種を受ける機会がなかった成人の男性が中心です。患者報告数を年齢別にグラフにすると、この世代のところが突出しているのがわかります(図3)」。 
厚生労働省は2019年度から「風しんの追加的対策」を実施しています。風しんワクチンの定期接種を一度も受ける機会のなかった世代に対して、第5期定期接種としてMRワクチン接種の機会を提供しています。対象は1962年4月2日〜1979年4月1日生まれの男性です。対象者には自治体からクーポンが送られてきます。クーポンは送られてきた自治体だけではなく、全国で利用することができます。
 厚生労働省は、2020年7月までに対象世代の男性の抗体保有率を85%、2021年度末までに90%に引き上げることを目標にしています。しかし菅谷先生によれば、この追加的対策の制度は、まず風しんに対する抗体検査を受けることが必要で、検査で抗体がなかった人だけがワクチン接種を受けられるという煩雑な仕組みのため、現在のところ厚生労働省の目標に達することは難しい状況のようです。

予防できる感染症は少数 ワクチンで確実に防ぐ

 菅谷先生は「せっかくの追加対策なのに残念ながらワクチン接種が進んでいません。すでに抗体を持っていてもワクチン接種をして問題はないので、追加対策の対象年齢でなくてもワクチン接種の記録がなければ、ぜひMRワクチンを受けてください」と言います。
 菅谷先生は「VPDを知って、子どもを守ろうの会」というNPO法人の理事長を務めています。VPDとは「ワクチンで防げる病気」の意味です。
 「世の中にはたくさんの感染症があります。新型コロナウイルス感染症に限らず、マラリア、エイズなど、多く感染症はワクチンがなく科学的な予防ができずに世界で多くの人の命が奪われています。その中で、少数ながら有効なワクチンが開発されている感染症がVPDです。せっかく防ぐ方法があるのですから確実に利用するべきです。失った命や健康は戻ってこないのですから」と菅谷先生は指摘します。

五輪東京大会に向けて 麻しん・風しん対策を強化

 オリンピック・パラリンピック東京大会の開催時には、海外からの訪日外国人も多数となり、競技関係者、運営関係者、観客など大勢の人々が会場等に集中して感染症の発生リスクが高まる状態が懸念されます。政府は感染症対策に関する関係省庁等の連絡会議を設けて、「2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会に向けた感染症対策に関する推進計画」を策定しました。その計画の中心は風しんと麻しんの感染拡大を防ぐ対策です。大会に関係する人はもとより、抗体保有に不安がある人はMRワクチンを接種することを要望しています。
 菅谷先生は「ワクチン接種は自分が感染しないためだけでなく、感染拡大を防ぐためにも必要なのです。特に感染症に対する抵抗力が弱い高齢者や幼児など感染のハイリスク者と接する人たち、特に、介護施設や保育施設で働くすべての人はワクチンを確実に接種しておく必要があります」と語ります。
 「ワクチンに詳しいのは小児科医ですから、もし、VPDで不安があったら大人の方でも小児科医に相談してください。『VPDを知って、子どもを守ろうの会』では、『オトナのVPD』という情報をサイト内で提供していますので、参考にしてください」と菅谷先生は話しています。