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脳卒中は突然やってくる
情報誌けあ・ふるVOL.102(2020/1) 掲載

聖マリアンナ医科大学東横病院
脳卒中センター長・脳卒中科教授

植田 敏浩 先生

「ヘン」だと思ったら迷わず救急車を

 日本人に多い重大疾患の一つが脳卒中です。突然に発症して、重い後遺症を残すこともあります。脳卒中にはいくつかのタイプがありますが、現在、日本人の脳卒中の約8割が脳梗塞です。発症後いち早く専門医の診断と治療を受けられれば、回復して自立した生活に戻ることも最近は可能になっています。転帰を決めるのは治療を始めるまでの時間。どんな症状が発症の警告サインなのか、気づいたらどう対処すればよいのか、聖マリアンナ医科大学東横病院脳卒中センター長・脳卒中科教授の植田敏浩先生にお聞きしました。

現れる症状は様々、重み増す脳梗塞への対処

 「脳卒中は日本人の死亡原因第4位で、寝たきりの原因の第1位の重大な疾患です。主な症状は意識障害、運動障害、感覚障害、言語障害、視力・視野の障害、めまい、頭痛など様々です。脳の中で障害が起きた部位によって、現れる症状も変わってきます」と植田先生は説明します。
 脳卒中はその発症のメカニズムの違いによって、脳の血管が詰まる「脳梗塞」、脳の細い血管が裂けて脳の組織の中で出血して、血腫(血の固まり)を作る「脳出血」、さらに脳の太い血管にできた脳動脈瘤が破裂して脳全体に出血が広がる「くも膜下出血」などに分類できます(図)。
 「以前は日本人の脳卒中では脳出血が多かったのですが、近年は血圧管理の重要性が広く知られるようになったことなどにより脳出血は減って、脳梗塞が8割近くを占めるようになっています。脳梗塞は軽症ですむこともありますが、重症で命にかかわることも少なくありません。脳卒中対策の中で脳梗塞への対処が重要になっています」(植田先生)。

警告サインが出現したら一刻も早く救急車を呼ぶ

 植田先生は「いずれのタイプであっても、脳卒中の症状は突然、出現することが大きな特徴です。脳卒中が起きた時には、症状として現れるいくつかの特徴的な警告サインがあります。次のような症状が出現したら、脳卒中かもしれません。直ちに救急車を呼んで、救急病院、または脳神経外科、脳神経内科のある病院で診察を受けてください」と言います。
 植田先生は警告サインとして、①片方の顔、手足のしびれ、または脱力感、②言葉の障害あるいは混乱状態、③片方の目、あるいは両目が見えない、見えにくくなる症状、④めまい、歩行障害、⑤突然の激しい頭痛、の5つの症状を挙げます。このうちどれか1つでも突然に出現したら、それは脳卒中の発症を警告するサインだということです(表参照)。
 また、日本脳卒中協会などではこれらを簡略化して、「口がヘン!(片側の口角が下がって顔がゆがんでいる)、言葉がヘン!(ろれつがまわらない、言葉が出てこない)、手がヘン!(手に力が入らない、片腕が上がらない)」の3つの「ヘン」な症状のどれかが「突然」に現れたら脳梗塞の警告サインなのですぐに救急車を呼んで病院に行くことを推奨しています。

迷わずに救急搬送を優先、「様子を見る」は誤り

 植田先生は「このような警告サインが出た場合には迷わず救急車を呼んでください。夜に症状が出たのに『明日の朝まで様子を見よう』と考えるのは誤りです。なぜならば、病院への搬送が遅れれば遅れるほど、治療後に自立した生活に復帰できる可能性が小さくなるからです」と注意を促します。
 「『救急車を呼んでも、脳卒中ではなかったらどうしよう。救急隊員や医師に怒られるのではないか』という心配はまったく無用です。実際、脳卒中が疑われて当院( 聖マリアンナ医科大学東横病院脳卒中センター)に搬送されてくる患者さんのうち、最終的に脳卒中と診断されるのは3分の1程度です。正確な診断は病院で専門医が画像検査などをしてみないとできません。救急車を呼ぶのをためらって病院への搬送が遅れると治せる可能性があるのにそれを逃すことにもなるのです」と植田先生は言います。
 さらに搬送するときの注意点として植田先生は「どの病院に搬送されるかは救急隊員に任せることが大事」と指摘します。「患者さんや家族の中には、かかりつけ医のいる病院への搬送を希望する方がいます。しかし、その病院が脳卒中の診断や治療に十分な知識や経験を持った医師や必要な設備がそろっていないこともあります。その地域で脳卒中への対応ができる病院の最新の情報は救急隊員が持っているので、その判断に従うとよいでしょう」(植田先生)。
 そしてもう1つ重要なことは発症からどのくらい時間が経過しているかを救急隊員に知らせることです。しかし発症の時刻が正確に分からないこともあります。その時手がかりになるのが「いつまで普通だったか」という情報です。例えば、朝起きようとしてヘンな警告サインがあったとき、「昨夜は夕食後テレビを見て10時に就寝した」と伝えれば、少なくとも昨夜10時までは発症していなかったことが分かります。
 植田先生は「発症から何時間経過しているかは、どのような治療法が選択できるかにもかかわってくるのでたいへん重要です。発症から数時間以内に治療を開始すれば、症状を早期に回復させ後遺症を最小限に食い止められる可能性があるからです」と強調します。
 脳梗塞の標準的な治療では、発症後4時間30分以内ならば脳血管内の血栓を溶かす薬である「組織プラスミノーゲンアクチベータ(t-PA)」の静注療法を行うことができます。また発症後24時間以内ならば次に説明する血栓回収療法で治療できる可能性があります。

急性脳梗塞の有力治療「t-PA静注療法」と「血栓回収療法」

 急性期の脳梗塞に対してt-PA静注療法が日本で始まったのは2005年からです。現在は標準治療の一つとなっていますが、閉塞血管の再開通率は30%と低く、満足できるものではありません。
 一方最近では、脳の太い血管の閉塞に対しては、カテーテルを用いた血栓回収療法が強く推奨されています。
 これは足の付け根の血管から細いワイアーを脳の血管まで入れ、詰まった血栓をステント型の器具で取り除く手術で、80%以上の再開通率を示します。この治療法の対象となるのは、通常は発症から8時間以内ですが、CTやMRI検査で脳梗塞の進行程度が軽い場合には24時間以内でも有効であることが証明されています。ただし治療開始が1分でも早いほうが脳のダメージが少ないので、症状が良くなる可能性が高くなります。そこで一刻も早く専門病院へ搬送して治療を開始することが重要です。
 こうした治療を行った後は、リハビリテーションを行って、発症前の自立したもとの生活に復帰することを目指します。「t-PA 静注療法の場合は自立した生活に戻れた割合は20〜30%でした。血栓回収療法が導入されたことで50%以上の患者さんが自立した生活を送ることができるようになりました」(植田先生)。

最も大切なのはやはり予防、生活習慣の見直しが鍵

 早期の治療で急性期の危機を乗り切った後の大切な課題は、再発の予防です。脳卒中によって寝たきりになる方は少なくありません。再発すれば寝たきり生活になる危険性は高くなります。植田先生は「脳卒中の再発予防に特別なことはありません。処方された薬を欠かさずに飲むことも大切ですが、再発予防を心がけるためには、食生活や運動習慣をはじめ、一般的に推奨されている生活習慣の改善を地道に守ることが大切です」と話しています。