知る・学ぶ

医療・介護トピックス

医療介護
原因によっては“治る”認知症
情報誌けあ・ふるVOL.101(2019/10) 掲載

順天堂大学医学部附属順天堂医院
認知症疾患医療センター長

本井 ゆみこ 先生

重要な鑑別診断と治療・対応

 「有効な治療方法はない」と思われがちな認知症ですが、認知機能が低下する原因はさまざまあり、外科的な治療などによって治るものもあります。しかし、認知機能障害の因果関係を見誤り、不適切な治療を行うと悪化する可能性があるため、鑑別診断が重要になります。どのような認知症が治療可能か、また、有効な治療法がない認知症患者への介護スタッフや家族の対応方法について、順天堂大学医学部附属順天堂医院認知症疾患医療センター長の本井ゆみ子先生にうかがいました。

原因によって異なる認知症治療

 認知症とは一般に認知機能が低下した状態を指します。国内の認知症の患者の数は2025年には700万人を突破すると予測されています。認知症の中にはアルツハイマー病やレビー小体型認知症といった神経そのものが変性してしまう器質的な疾患がありますが、処方された医薬品や外科的な外傷などが影響して認知機能が低下している場合もあります。
 認知機能低下に影響している要因を取り除ける患者に、適切なタイミングで適切な治療を行うことで病状が改善することがあります。こうした“治せる認知症”を、神経が変性したアルツハイマー病のような、現状では“ 治せない認知症”と誤認しないことが大切です。
 たとえば頭蓋内に脳を保護する脳脊髄液(のうせきずいえき)が異常に溜まってしまったために起こる「特発性正常圧水頭症」(とくはつせいせいじょうあつすいとうしょう)という病気があります。この病気はもの忘れやぼんやりしている状態が続くなど、認知機能が低下する症状が出現することがあります。ほかに歩行障害、尿失禁がみられます。
 この病気は脳脊髄液を抜くことによって発症前の状態に戻ることが知られています。しかし、最初に判断を間違ってアルツハイマー病と誤診されると、適切な治療を受けられないまま時間が経過して、脳の萎縮が起こってしまい、治癒できなくなってしまうケースがあります。認知症を疑った場合は、専門医に診断してもらうことが大切です。

難しいアルツハイマー病とうつ病の鑑別

 「『認知症になった』患者に対して最初にすることは、認知機能の低下の状態の客観的な把握です。そのために用いる検査はMMSE(Mini-Mental StateE x a m i n a t i o n )や改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)などがあります」( 本井先生)。
 MMSEは「今年は何年ですか」「ここは何県ですか」などの質問を重ね、30点満点で評価するものです。23点以下を認知症の疑いとします。HDS-Rも「お歳はいくつですか」などの質問群を30点満点で評価し、20点以下で「認知症の疑い」と判定します。
 「次に大切なことは、“治療可能な認知症”の除外です。治療可能な認知症には、『うつ病(抑うつ状態)』、『せん妄』、『薬剤性認知機能障害』、『脳外科疾患』などがあります」(本井先生)。
 認知症の鑑別で最も大切なことは、うつ病でないことを確認することです。うつ病は最も多くみられるまぎらわしい疾患です(表)。
 アルツハイマー病がゆっくり進行するのに対して、うつ病は比較的速く進行し、しかも良くなったり悪くなったりの変化が急です。
 検査の質問をすると、アルツハイマー病の患者は質問の意義を問い返すなど取り繕う傾向がありますが、うつ病の患者はあまり長く考えず「分からない」と回答することが多く、対照的です。
 ただし、実際にうつ病とアルツハイマー病の初期症状を鑑別することはとても難しいので、精神神経科や認知症専門の診療科を受診することが最も大切です。

誤診を避けて不適切治療を防ぐ

 高齢者が肺炎などで入院するなど生活環境が変わったりすると、コミュニケーションが取れなくなる、病棟で騒ぐなどといったせん妄の症状が出ることがありますが、積極的な治療をしなくても気持ちが落ち着けば数日から数週間で改善します。これをアルツハイマー病と誤診して抗認知症薬を処方すると、病状が悪化してしまうことがありますので、やはり鑑別はとても大切です。
 日常診療で使われている薬の中にも精神に影響を及ぼすものが多くあります。抗利尿薬や抗不安薬、睡眠導入剤、降圧薬、抗コリン薬、向精神薬の副作用で、せん妄や意欲の低下、記憶力に障害が起きることもあります。軽症のものも含めると非常に多い症状です。
 またアルツハイマー病の治療薬の中には興奮を引き起こすものがあります。アルツハイマー病ではないのに、誤診により治療薬を処方されると、そのような精神症状が表れてしまうこともあります。
 薬剤性の認知機能障害を適切に鑑別してもらうために、医師に診察してもらうときには、すべての診療科の服薬歴を医師に伝えられるようにお薬手帳を持参して、必要に応じて処方を見直してもらいましょう。

頭に外傷がないか常に注意をはらう

 もの忘れ外来を受診する患者に多い「治る認知症」は、前述の「特発性正常圧水頭症」と「慢性硬膜下血腫」です。
 慢性硬膜下血腫は軽い頭部外傷などをきっかけに起こる認知症です。頭蓋骨の中で脳を覆っている硬膜という膜の内側に出血して血液が溜まり、数日から数カ月が経過すると認知機能の低下が表れます。高齢者は頭を打っても覚えていないことが多いので、介護スタッフや家族は日頃から頭にケガをしていないか注意をはらい、診察時に医師に伝えてください。

ケアマネジャーと心のリハビリを探す プライドを傷つけずリラックスさせる

 “治らない認知症”にはアルツハイマー病、レビー小体型認知症、血管性認知症、前頭側頭型認知症があります。これらのケースでは、心のリハビリテーションがとても重要になります。
 それには公認心理師・臨床心理士や地域包括支援センターのケアマネジャーに相談することが有効です。認知症の患者は、家族以外の人とは話しやすいようです。
 特に、ケアマネジャーの役割は重要です。なかなかデイサービスに行きたがらない患者も多いのですが、お遊戯などには反応しなくても麻雀やパソコン操作など知的な活動に興味を持つことがあります。患者の好みに合ったデイサービスや適切な心のリハビリテーションをケアマネジャーに見つけてもらえれば、患者の生活のリズムができてきます。
 家族の対応で重要なことは、認知症の患者のプライドを傷つけず、リラックスさせてあげることです。つい「さっき言ったじゃない」などと口にすると、患者は不信感や敵対感を持ってしまい、家族と話さなくなりがちです。
 患者自身は、「何かおかしい。次に何が起こるのだろう」と不安になっていますから、そこを刺激しないように否定的な物言いや理論的な説明は避けて、相手の発言を受け止めてゆっくり対応するように心がけることが大切です。
 「家族は毎日一緒にいるので大変だと思いますが、認知症の病状を理解して相手を尊重してあげてください。今は家族会もあるので、そこでお互いの状況を語り合うこともお勧めします」と本井先生はアドバイスします。