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転倒リスクが高まる「せん妄」対応法
情報誌けあ・ふるVOL.99(2019/4) 掲載

国立大学法人 東京医科歯科大学
医学部附属病院 精神科 講師

竹内 崇 先生

認知症やうつ病と混同されやすいので注意

 ある日、自分の居場所や時刻が分からなくなる、つじつまの合わない言動を繰り返すなどの症状が突然出現する「せん妄」は、認知症やうつ病と状態が似ていることがあるため混同されやすいものです。正しい対応をとらずせん妄が長引くと、認知症発症のリスクが高まるという研究もあります。しかし、せん妄の危険因子はわかっているので、それらをできるだけとり除くことが予防のために重要です。東京医科歯科大学医学部附属病院精神科の竹内崇先生にせん妄対策をうかがいました。

振る舞いが突然変化したときはせん妄の可能性大

 次のAさんのケースを認知症だと思いますか。
 特別養護老人ホームで暮らしていたAさんの行動がおかしくなったのは、施設の都合で別の居室に引っ越した日の夜でした。就寝の時刻になってもイライラして落ち着きがない様子です。施設のスタッフが「Aさん、どうしたの?」と尋ねると、「ベッドの周りに知らない人がいるので、気になって眠れない」というのです。「誰もいませんよ」とスタッフが声をかけても「そこにいる」と大声で抗議します。昨日まではこのような振る舞いはなかったはずなのに……。
 次のBさんはうつ病でしょうか。
 毎朝、決まった時間に食堂に来るのに、今朝はいっこうに姿を現しません。心配したスタッフが呼びに行くと、Bさんはぼんやりとしていて返事もありません。再三呼びかけると、意味の分からない言葉を呟いていて、明らかに様子がおかしい。
 実は、Aさん、Bさんいずれも「せん妄」が出現している可能性があります。

せん妄には3タイプあり認知症やうつ病に似ている

 せん妄とは、手術の後や持病の重症化、高齢者に多く見られる一時的な意識障害を指します。一口にせん妄と言っても症状はさまざまで、「過活動型」「低活動型」「混合型」の3つに分類することができます。
 過活動型は、いつもより大声で話したり、興奮したりイライラして落ち着かず、幻覚や妄想が出現し、つじつまが合わない話をする、といった症状があります。不眠もよく見られます。Aさんに出現したのは典型的な過活動型せん妄といえます。
 対照的に、反応が乏しく、無表情・無気力などを特徴とする「低活動型」せん妄があります。Bさんはこのタイプのせん妄でした。
 このほかに、24時間以内に両方の症状が現れる「混合型」のせん妄もあります。
 過活動型は認知症と間違えられやすく、一方の低活動型はうつ病と混同されやすい傾向があります。認知症やうつ病とせん妄を鑑別する方法について、竹内先生は、「認知症は進行がゆっくりで、症状に大きな変化はありません。一方、せん妄は突然出現することが多く、しかも1日のうちで症状が変動することが特徴です。うつ病では一般的に記憶に問題がなく、見当識障害はあまり見られません。しかしせん妄は記憶障害や見当識障害が出現することが多いので、これらを手がかりに鑑別するとよいでしょう」と説明します(表)。
 認知症やうつ病と誤認して適切な対応を怠るとせん妄の症状を悪化させたり、長引かせたりすることがあるので、この鑑別は非常に大切です。
 せん妄は、ある程度時間が経つと治まることも少なくありませんが、決して放置してよい状態ではありません。最近の研究では、せん妄の持続期間が長いほど脳の体積が減少し、認知症を発症しやすいことが明らかになっています。また、総合病院で見られる転倒の大多数にせん妄が関係していたという報告もあります。

せん妄は認知機能の低下や体調、環境の急変で出現

 それでは、なぜせん妄が出現するのでしょうか。
 竹内先生によると、せん妄の原因は「準備因子」、「直接因子」、「促進因子」の3つに分類することができます(図1)。
 準備因子とは、加齢、脳血管障害や認知症などによる認知機能の低下です。これに直接因子として身体疾患や薬物の影響などが加わります。せん妄は脳の器質疾患だけでなく、肺炎による酸素不足、肝臓や腎臓などの内臓の病気が引き金になる場合があります。
 また、服用している薬の種類によってせん妄の原因になることがあります。がんの疼痛緩和を目的に使われるオピオイドや、ベンゾジアゼピン系の薬剤、さらにはステロイド、胃薬のH2ブロッカーなどを内服しているとせん妄につながりやすいとされています。こうした薬を内服していてせん妄が出現した場合は、処方した医師に相談してみましょう。
 促進因子には、睡眠妨害や環境の変化に伴う精神的ストレスなどがあります。Aさんのケースでは居室変更がストレスになり促進因子となったと考えられます。

ハイリスク者を見極めて原因となる因子を遠ざける

 竹内先生がまとめた「せん妄対応の4STEP」を図2にまとめました。せん妄の因子をもっている人に対して予防的な介入を心がければ、その出現リスクを減らすことができます(STEP1)。中でも強い因子である70歳以上、認知症や内臓に病気を抱えている、アルコールを多飲する、侵襲性の高い手術を受けたなどの因子をもつ人は要注意です。
 予防的介入が必要な方に対しては環境が変わったときには注意し、身近なところにカレンダーや家族の写真を配置するなどして見当識障害が起きないように配慮することや、普段の声がけも有効です(STEP2)。
 また、夜間の不眠がせん妄の引き金になることも多いため、昼間は散歩など適度な運動を行い、睡眠リズムを整えるようにすることが大事です。
 さらに口の渇きや排泄時の不快感など、些細なことがせん妄の引き金になることもあるので、不調がないか確認しましょう。
 しかし予防を心がけていても出現してしまうことがあります。そのような場合は、手の届くところに危険となる物を置かないなどの安全対策とともに適切な薬物療法を行います(STEP3)。もしつじつまが合わない話をしても、否定せず受容的な態度で接しましょう。
 医師によってせん妄が改善したと判断された後は、せん妄の治療薬の漸減中止を心がけるとともに安全対策を緩めます(STEP4)。せん妄は入院患者や介護施設に入所している方々の多くに出現する症状ですが、適切な事前評価と介入によって、その出現を減らすことが可能です。「認知症の進行などと決めつけず、精神科医師の診断を仰いでください」と竹内先生はアドバイスします。