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牛乳に認知機能低下防止の効用
情報誌けあ・ふるVOL.96(2018/7) 掲載

東京都健康長寿医療センター研究所
社会参加と地域保健研究チーム
管理栄養士

成田 美紀 先生

食事のバランス改善にも牛乳を

食が細って低栄養になりがちな高齢者にとって、牛乳はバランスのとれた良好な栄養を提供するだけでなく、認知機能低下の防止にも効果があることが明らかになってきました。長年にわたって高齢者の食事習慣や栄養摂取の動向を調べて、それらが認知機能にどのように影響しているかを研究してきた東京都健康長寿医療センター研究所の成田美紀先生に、高齢者にとっての牛乳の効用についてお聞きしました。

牛乳は栄養価が高く手軽なバランス食品

子供の頃は牛乳をよく飲んでいても、成人になるとあまり飲まなくなるという人が多いようです。しかし、70歳以上で牛乳をしっかり摂取している人は、牛乳をほとんど飲まない人に比べて、栄養状態がよく、認知機能が低下しにくいことが東京都健康長寿医療センター研究所の調査研究で明らかになりました。この研究をまとめた同研究所社会参加と地域保健研究チームの成田美紀先生は「高齢になると骨量や筋肉量が減り、食欲も減退しがちになります。牛乳は、動物性たんぱく質や脂質、カルシウムなどを含む栄養学的にきわめてバランスのいい食品です。しかも認知機能の低下を防ぐことにもつながります」といいます。

食事のバランスを改善、認知機能低下しにくく

同研究所は群馬県草津町と提携して、町民の健康管理に協力して、共同研究を続けています。2003年および2013年に実施した介護予防健診に参加した70歳以上の住民を対象に、牛乳摂取量と習慣的な食品摂取量などの動向を調査しました。その結果、10年の間に牛乳の摂取量は増えていました。栄養摂取量をみると、エネルギー摂取の総量は多くなってはいませんでしたが、たんぱく質および脂質の摂取が多くなり、カルシウムをはじめカリウム、ビタミンB群などの微量栄養素が増え、全体的に食事の“質”が高くなっていることが分かりました。中でも牛乳を多く飲んでいる人は、たんぱく質と脂質の摂取が増加して炭水化物が減り、緑黄色野菜や果物の飲食が増え、主食および菓子が減る傾向も明らかになりました。また、牛乳摂取量が多いほど、カリウム、カルシウム、リン、亜鉛、ビタミンB1、B2、B6などの微量栄養素も増加しており、バランスのいい食事をしていることが分かりました。血液検査の結果では、牛乳摂取量の多い人は、赤血球の成分が十分にあって貧血になりにくく、善玉コレステロールであるHDLコレステロールが多くなっていました。一方で、2003年調査時に認知機能スクリーニング検査(MMSE。30点満点中23点以下で認知症の疑いとされる)を行って、25点以上だった参加者222名を対象に、最大5年間追跡して認知機能の変化を調査しました。追跡期間中、MMSEが3点以上低下した場合を認知機能低下として分析した結果、5年間で約2割の人の認知機能が低下していました。そして、牛乳の摂取量が多い人、中程度の人、少ない人に分けた上で、「機能低下あり」との関連を調べた結果、摂取量の少ない人は多い人に比べて2・73倍も認知機能が低下しやすくなっていることが判明しました。

牛乳は血管疾患やメタボ予防にも効用

牛乳や乳製品の認知機能低下を抑える効果については、成田先生たちの研究のほかに、国立長寿医療研究センター(愛知県)の長期研究でも、乳製品の摂取が増えると認知機能が低下しにくくなるという結果が報告されています。牛乳の効用については、日本国内だけでなく、海外でも多くの研究が行われていて、心筋梗塞や狭心症、大動脈瘤など血管疾患やメタボリックシンドロームの発症に対して予防的な効果を持つことが報告されています。また、カルシウムが豊富で吸収されやすいので、特に女性には牛乳の飲用が骨粗しょう症の予防に有効であることが明らかになっています。さらに、牛乳を飲む量が多いほど中年以降の成人にできる歯の付け根のむし歯ができにくくなるという研究結果もあります。ただし、さまざまな健康への効用がある半面、欧米では牛乳に含まれる脂肪分が血管によくない影響を与えるという説があります。この心配については、「日本人が日常飲む牛乳の量は、欧米の人に比べてまだかなり少ないので(図)、日本では脂肪分の悪影響を気にする必要はありません」と成田先生は話します。

高齢者には1日1瓶、栄養補給プラスαの効果

高齢になると食事量が減って特に肉類などの摂取が少なくなり、虚弱や寝たきりにつながる低栄養状態になりがちです。牛乳やヨーグルト、チーズなどの乳製品はその不足を補い、なおプラスαの健康効果が期待できそうです。しかし、日本の高齢者の約3割は牛乳・乳製品をほとんど摂取していないという調査報告があります。成田先生は「もちろん、牛乳を飲むだけで認知機能の低下が完璧に予防できたり、栄養状態の悪化を防げるわけではありません。しかし、これらの研究結果は、牛乳や乳製品を摂取しない食生活が高齢者の健康を損ねる要因になる可能性があることを示しています。牛乳は調理しなくても手軽に摂取できる食品ですので、高齢の方こそ、毎日1瓶(200ミリリットル)でいいですから飲むようにお勧めします」と話しています。