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「あせも」の正しいセルケア
情報誌けあ・ふるVOL.96(2018/7) 掲載

東京慈恵会医科大学 名誉教授
あたご皮フ科 院長

中川 秀己 先生

放置すれば、感染症に進むリスクがある

気温が高く、日差しが強くなる夏。この時期に増えてくるのが皮膚病の1つ「あせも」です。大量の汗をかいたまま放っておくと、首回りや背中などにポツポツとした湿疹ができ、多くの場合かゆみを伴います。乳幼児によくみられますが、大人や高齢者でも、「あせも」に悩む方が少なくありません。日常生活でできる予防法や、セルフケアについて、東京慈恵会医科大学名誉教授、あたご皮フ科院長の中川秀己先生にお聞きしました。

「あせも」は汗の通り道がふさがれて起こる炎症

高温多湿の夏は体温が上昇しやすく、汗をかきやすい季節です。汗を不快に感じる人もいますが、汗は決してやっかいものではありません。むしろ、体温調節のために欠かせないもの。かいた汗は蒸発するときに身体の熱を奪い、体温が上がりすぎるのを防いでいるのです。また、汗には皮膚のうるおいを保つという役割もあります。「ところが、大量の汗をかき続け、そのまま放置しておくと、汗に含まれる塩分やほこりなどで汗管という汗の通り道がふさがれます。行き場を失った汗は、皮膚の内側(表皮)にたまり、周辺の組織を刺激して炎症を起こします。これが『あせも』です」と中川先生は説明します。余談ですが、汗をかくために必要な汗腺を持っているのは、人間や馬など哺乳類の一部だけ。夏の暑い日に、散歩している犬が大きく口をあけ、舌を出してハアハアしている様子を見かけます。あれは、疲れているからではありません。犬は汗をかかないため、舌から水分を蒸発させて、体温調節しているのです。

3つのタイプに「あせも」は分けられる

「あせも」は、医学的には「汗疹」と呼ばれ、生じた部位によって「水晶様汗疹」、「紅色汗疹」、「深在性汗疹」の3タイプに分けけられます(図)。水晶様汗疹は、透明で水滴のような小さなポツポツ( 水疱)がいくつもできます。皮膚のごく浅い部分に起こるため、かゆみや炎症などの症状はほとんどありません。乳幼児に多いタイプです。紅色汗疹は、一般に「あせも」といわれるものです。小さな赤い水疱がたくさんでき、かゆみを伴い、汗をかくとチクチクとした刺すような痛みを感じることがあります。また、深在性汗疹は、皮膚の深い部分で汗腺が詰まって起こります。重症度が高く深刻ですが、熱帯地方に多く、日本ではめったにみられません。このような「あせも」のタイプによって対処法も少し異なります。「水晶様汗疹は、放置していても、水疱が破れ、薄い皮がはがれて自然に治ります。一方、紅色汗疹は、かゆみを伴いますので、どうしても引っかいてしまいます。かくと皮膚に傷がつき、そこに付着した細菌が繁殖して感染症を起こすことがあります。ですから、かゆみが強いときは、一時的にステロイド外用剤を用い、炎症を抑えることが大事です。しかし注意が必要です。ステロイド外用剤は、皮膚科を受診し、医師と相談の上で使用すること。市販のステロイド外用剤を用いる場合は、薬剤師とよく相談し、自分に合ったものを選び、長期使用は避けるように」と中川先生はアドバイスします。

大人や高齢者にも発症リスクがある

すでに触れたように、「あせも」は多量の汗をかき、そのまま放っておくと発症しやすくなります。なかでもリスクが高いのは乳幼児です。理由は汗を分泌する汗腺にあります。成人の場合、汗腺の数は230~250万個といわれていますが、乳幼児でもほとんど同じ数です。身体が小さいのに、大人とあまり変わらないので、体表面積あたりの密度はかなり高く、大人の2~3倍もの大量の汗をかいてしまうからです。また成人でも、アトピー体質や乾燥肌の人は、皮膚を保護するバリア機能が低下しているため、少しの汗でも、長時間肌についたままになっていると、「あせも」を起こしやすくなります。一方、高齢者は若い人に比べると、発汗量が低下しています。とはいえ、高温多湿の環境にいれば多量の汗をかきます。また、寝たきりや背もたれのあるイスにずっと座っていたりすると、背中などに汗をかいたままの状態が続き、それも「あせも」の原因となります。

「あせも」に対する4つのセルフケアポイント

では、「あせも」を予防するために、日常的にどのようなケアが必要なのでしょうか。中川先生にポイントを挙げていただきました。
①「高温多湿の環境を避ける」
夏に汗をかくのは当然です。しかし、多量の汗をかき続けるのはよくありません。日差しの強い日中はできるだけ外出を控え、屋内では、エアコンを適度に使用し、涼しい環境で過ごすことが、「あせも」対策になります。省エネでエアコンをかけないという家庭もあると思いますが、少なくとも室温が30℃を超えるようなときは、エアコンを利用したいものです。
②「汗をかいたらシャワーを」
汗をそのまま放置すると、皮膚の表面に汚れがたまり、汗の通り道がつまって「あせも」ができやすくなります。汗をかいたら、シャワーを浴びて身体を洗い、清潔を保つようにします。また職場などでは、こまめに汗をふきとる習慣を。水にぬらしたタオルの方が、汗の成分をよく落とせます。ただ、肌をゴシゴシとこするのは禁物。やさしく押さえるようにふいて、皮膚に負担を与えないようにします。市販の制汗シートや制汗スプレーを使うのもいいでしょう。
③「吸湿性・通気性のいい下着を着る」
汗をかいたら着替えるのが望ましいのですが、外出先や職場などでは難しいことがあります。最近は、吸湿性や通気性のいい素材を用いた下着・インナーなどが市販されていますので、それらを利用し、できるだけ汗で濡れたままの状態が続かないようにします。
④「保湿剤を塗る」
シャワーや入浴後には、肌の乾燥を防ぐために、保湿剤を塗り、肌のうるおいを保つようにします。肌が乾燥していると、「あせも」ができやすくなります。

症状が悪化した場合はすぐ皮膚科を受診

「あせも」は、多くの場合、水晶様汗疹は数日、紅色汗疹も1 週間ほどで治ります。しかし、市販薬などを使っても改善しなかったり悪化するような場合は、細菌による感染症が起こっていたり、他の皮膚病の可能性があります。例えば、乳幼児や小児では、「あせも」をかきむしったため、皮膚の表面に黄色ブドウ球菌などが繁殖することがあります。かゆみを伴う水ぶくれができ、それが破れると他の場所に、飛び火のように簡単に移ってしまうところから「とびひ」と呼ばれています。また、高齢者では、「あせも」とばかり思っていたのに、実は汗に含まれる塩分やアンモニアなどが、皮膚を刺激して起こる「接触性皮膚炎」だったというケースもあります。中川先生は、「『あせも』がなかなか治らなかったり、症状が悪化するような場合は自己判断せず、すぐに皮膚科を受診してほしい」と注意喚起します。