背あげの研究

どうすれば「その人らしい生活」を実現できるか、考える。

患者様の早期離床・早期回復を目指し、寝たきりを防ぐためには、就寝時以外はできるだけ、
身体を起こして生活するように導く必要があります。パラマウントベッドは、日本で初めてギャッチベッドを
開発・発売して以来、つねによりよい背あげ方法を追求してきました。背あげの際に生じる
身体のずれや圧迫感を軽減するだけでなく、どうすればベッドで過ごす人が身体を起こし、
ベッドから離れて「その人らしい生活」を送ることができるのか。
ここでは、私たちの原点とも言える背あげの技術をご紹介します。

人の身体の動き」に注目する。

ベッドでの背あげ方法を考えるとき、最初に注目しなくてはならないのが「人の身体の動き」です。たとえば、人は仰臥位から上体を起こすと骨盤が立つので上半身がやや伸びます。しかし電動ベッドの動きがこのような身体の動きに合っていないと、身体にずれや圧迫感を生じてしまうのです。ベッドの背あげの動きを人の身体の動きに近づけることはできないか。

1993年から電動ベッドに採用している独自の「キューマラインボトム」は、そんな発想から生まれました。ベッドの連結部分を背あげと同時に身体にそって曲げながら伸ばす仕組みによって、より人の身体の動きに合わせた背あげ動作を実現しています。その結果、ベッドと身体がずれにくく、胸や腹部の圧迫感の少ない起きあがりが可能になったのです。

伸びながら曲がるキューマラインボトム
  • 従来の分割ボトム
  • キューマラインボトム

大転子を中心に曲げるという人の自然な起き方に合わせるために、ベッドには背ボトムの回転軸と大転子とをなるべく近づける動き方が必要になる。

6,500通り以上の背あげ方法を
検証し、身体のずれを軽減する
独自の背あげ方法を実現。

背あげをするときに、背ボトムをあげるだけでは上体がすべり落ちてしまい、身体にずれや摩擦が生じます。これは、床ずれの原因のひとつと考えられています。それを防ぐ背あげ方法を探るため、ベッド開発者はボトムの分割を何度も変えて試作したり、背ボトムと膝ボトムの動かし方を変えたりするなど、6,500通り以上の背あげ動作について、ずれ量や圧迫感を繰り返し検証しました。さらに、病院や介護施設などにヒアリングを行い、新しい背あげ方法を模索しました。こうして開発した革新的な背あげ機構「カインドモーション」は、背ボトムと膝ボトムの上げ下げを複雑に組み合わせた動作をプログラム化することによって、ボタンをひとつ押すだけで、身体のずれを大幅に軽減する背あげ方法を実現しました。さらに、背をあげたあとにずれた身体を引き起こす、いわゆる「抱き起こし」や「引きあげ」などのスタッフの負担軽減も実現しています。「カインドモーション」は、2003年から医療施設用電動ベッド[メーティスシリーズ]に搭載され、同様の背あげ機構である「らくらくモーション」は、在宅介護向け電動ベッド[楽匠]に搭載されました。

ラクリアモーションによる、膝を少し曲げて足を下げた起きあがり姿勢の図

ラクリアモーションによる、膝を少し曲げて足を下げた起きあがり姿勢

従来の背あげによる両足が伸びた長座位の姿勢の図

従来の背あげによる両足が伸びた長座位の姿勢

※両足を伸ばした状態で座る体位のこと。ふともも裏の筋肉ハムストリングが
つっぱるため、動きにくく、長時間安定した姿勢を取ることが難しいと
言われています。

安定して座らせる」めには、
従来のベッドの限界を
超えなければならなかった。

独自の背あげ機構「カインドモーション」はたいへん好評を博しましたが、次の課題も見えてきました。それは、ベッド上でより安定して「座らせる」ことです。従来の電動ベッドの背あげ方法では、長座位がゴールとなってしまいます。身体のずれが少ない「カインドモーション」の利点はそのままで、より自然な座位に近づけるためには、どうすればいいだろう。その答えとなったのが、背と膝の角度だけでなく、ベッド全体の傾斜を組み合わせた「ラクリアモーション」です。背あげをするときにベッドが足方向に傾斜する画期的な仕組みを加えることにより、背あげをすると膝を少し曲げて足を下げた姿勢に移行できます。そのため、起きあがったときの姿勢が安定して動きやすくなります。同時に、床ずれリスクの高い仙骨部にかかる圧力をお尻やふとももに再分配させることで、床ずれリスクの軽減にも大きく寄与しています。「ラクリアモーション」は、電動ベッドだからゴールは長座位、という従来の常識にとらわれず、その限界を越えることに挑戦したからこそ生まれた、まったく新しい背あげ方法なのです。2013年から在宅介護向け電動ベッド[楽匠Zシリーズ]に搭載した「ラクリアモーション」は、その後医療施設用電動ベッド[メーティスPROシリーズ]の「カインドPLUSモーション」として展開されています。

できることは、まだまだある。

できることは、まだまだある。

電動ベッドで起きあがった人がより自然に離床できないだろうか。
療養中で身体を動かしにくい方や運動機能が低下している高齢者にとって、ベッドから離れるという動作は、
たいへんな苦労を伴います。よりよい姿勢で起きあがり、さらにベッドから離れやすくするためには、
たとえばベッドの高さやベッドに取り付ける手すりの位置や形状も精査する必要があります。
あるいは、ベッドはそれらを統合したロボットのようなものに進化するかもしれません。
よい背あげとは、電動ベッドで背をあげることだけではなく、ベッドから離れて
なるべく普通に生活できるようにしてあげることだと思います。
そのために、できることはまだまだあると、私たちは考えています。