知る・学ぶ

医療・介護トピックス

医療介護
その動悸・息切れは心臓弁膜症かも 早期治療で心不全への進展を予防
情報誌けあ・ふるVOL.107(2021/4) 掲載

東京医科大学病院
循環器内科 講師

山下 淳 先生

 高齢者で急増している心不全の大きな原因が心臓弁膜症です。心臓のポンプ機能を支えている心臓弁が、長年の使用で開閉の働きが悪くなった病態です。典型的な症状は動悸や息切れですが、加齢による体の変化に紛れて、見落とされがちです。心臓弁膜症をそのまま放置していると、心不全を起こしてしまいますが、時期を逃さずに治療を受ければ完治もできます。心臓弁膜症への対処法を東京医科大学病院循環器内科の専門医、山下淳先生にお聞きしました。

高齢者で心不全が急増中 原因は心臓弁膜症の増加に

 「高齢者の増加に伴って、心不全の患者さんが急増しています。心不全は心臓が十分に働かなくなる状態で、その大きな原因の一つが心臓弁膜症です。心不全を起こさないようにするためには、心臓弁膜症の初期の症状を見落とさず、早期に治療を受けることがとても大事です」と山下先生は注意を促します。心臓弁膜症は加齢とともに増える傾向があり、有病率は65〜74歳では約8・5%、75歳以上では約13%と推定されています。
 山下先生は「心臓弁膜症は、住宅で言えば、築後年数を経ると扉の立て付けが悪くなって、うまく開かなくなったり、閉まりが悪くなったりするのと似ています。心臓も長年使ってくると、弁の“立て付け”が悪くなって、開閉がうまくいかなくなってくるのです。
 症状が軽いうちに診断がついて治療をすれば、心臓弁膜症は完治させることができます。しかし、治さずに放置しておくと、心臓の働きが急激に低下して、心不全の状態になります。心不全の状態になると、現在の治療技術では、もう元には戻せないのです。徐々に進行して、入退院を繰り返すことになります」と説明します。

心臓には4つの弁 加齢で開閉に不具合が

 心臓には4つの部屋があります。全身に新鮮な血液を送り出すポンプとして機能するために、それぞれの部屋の出口には弁があって、一定の方向に血液を流して逆流を防いでいます。右心房から右心室出口には三尖弁(さんせんべん)、右心室から肺動脈への出口には肺動脈弁、左心房から左心室への出口には僧帽弁(そうぼうべん)、そして左心室から全身の血流につながる大動脈への出口には大動脈弁があります(図)。これら4つの心臓弁のどこかに障害が起きて本来の機能を果たせなくなった状態が心臓弁膜症です。
 弁の開き方が不完全になって血液の流れが悪くなる「狭窄」と、弁の閉じ方が不完全になって血液が逆流してしまう「閉鎖不全(逆流)」の2つのタイプに大別されます。4つの弁のいずれでも起こりますが、心臓弁膜症で治療を受ける患者の大半は、左心室にある大動脈弁または僧帽弁に障害が起きていています。心臓弁膜症の97%はこの2つの弁のいずれかの狭窄または閉鎖不全によるとの研究データがあります。

初期症状は見落としがち 半年前と比べてチェックを

 心臓弁膜症の典型的な初期症状は動悸、息切れ、足のむくみなどです。しかし、加齢による体の衰えの変化と似ているため、心臓弁膜症による症状が表れていても、「年のせいだから」と思い込んでしまい、見落としていることが多いので注意が必要です。
 山下先生は「昨日と比べて、今日は歩くのが少ししんどいという違いが分かる人はあまりいないでしょう。しかし、半年前、1年前の自分と比べたときに、あのときにはできていたのに…と思い当たることはありませんか」と問いかけます。
 そして、「例えば、半年前は買い物に行くのは平気だったのに、最近は同じだけ荷物を持って歩くと息切れがする、1年前は歩けた距離が続けて歩けなくなった。あるいは、お孫さんと遊んでいて、前の正月に来たときには追い掛けられたのに、今年は追い掛けられなくなって息切れがする。このようなことがあれば、それは心臓弁膜症が進行しているからかもしれません。早めに循環器専門医を受診することをお勧めします」とアドバイスします。

心エコー図検査で正確に診断 治療の時期を逃さず受診を

 循環器専門医を受診すると、聴診を行って心臓弁膜症に特有の心雑音が認められた場合には、心エコー図検査(心臓超音波検査)を行います。心エコー図検査は痛みを伴わない安全な検査です。ベッドに横になっているだけで、30分ほどで終わります。もし心臓弁膜症の所見があれば、弁の狭窄の程度や血液の逆流の様子も正確に分かります。
 心臓弁膜症の治療は、手術をして、働かなくなった弁を人工弁に取り替えることで、心臓の機能を回復させます。「お薬である程度は症状を抑えることはできますが、心臓の働きを回復させることはできません。タイミングを逃さずに手術やカテーテル治療を受けることが大切です」(山下先生)。

高齢でも安全に治療が可能 定期健診で心臓の健康管理を

 心臓弁膜症の手術は、心臓の中にある弁を取り替える手術なので、胸を切開する大がかりな手術が必要でした。しかし現在は、開胸せずに太腿の付け根などの血管からカテーテル(細い管)を通して工弁を心臓まで運び、留置する治療が普及しています。
 「特に大動脈弁については、経カテーテル大動脈弁置換術(TAVI)と呼ばれるカテーテル治療が80歳以上の患者さんでも比較的安全に行える標準的な治療法になっています」という山下先生。「あなたがいま少し気になっている動悸や息切れは、心臓弁膜症の始まりかもしれません。定期的に心臓の聴診と心エコー図検査でチェックを受けて、心臓を元気に保ってください」と話しています。