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医療介護
災害時に変わる医療体制 事前の対策で安全避難を~大規模災害への備え~
情報誌けあ・ふるVOL.105(2020/10) 掲載

清泉女学院大学 看護学部
国際・災害看護学 教授

小原 真理子 先生

清泉女学院大学 看護学部
災害看護学・在宅看護学 専任講師

齋藤 正子 先生

 日本は地震や水害など自然災害が多い国です。災害で数多くの負傷者が発生した場合、被災地の医療機関は災害時体制に移行します。限られた医療リソースで治療に当たる医療機関の負担を軽減するために、行政やさまざまな団体は公助、共助、自助を充実させることで防災、減災を図る取り組みを進めています。その構想、計画に沿ったかたちで、身体の状態に応じて異なる避難時の配慮や、平時に個人が備えておきたい減災対策・避難生活のための準備について、清泉女学院大学看護学部教授の小原真理子先生、同専任講師の齋藤正子先生にお聞きしました。

通常の救急医療とは異なる災害時の医療体制

 活火山を抱え、北米・ユーラシア・太平洋・フィリピン海の4つのプレートがせめぎ合う上にある日本はいわゆる地震国で、大地震によって多大な被害を受けてきました。加えて、海水温度の上昇で水蒸気を大量に含んだ低気圧による豪雨に見舞われることが増加し、洪水などでたびたび被害を受けるようになりました。
 大規模な自然災害によって一度に多くの負傷者が搬送されると、救急を担当する医療機関は災害時の運営体制に切り替わります。平時は、医療機関が想定している救急受け入れキャパシティーの中で救急医療を行えるので、医師・看護師などの医療スタッフ、輸血用の血液や医薬品、ICUなどの受け入れ病床などが不足することは、まずありません。しかし、大規模災害時は建物崩壊や停電などの被害によって医療機能が停止してしまう可能性があります。交通手段が麻痺してしまうと医療スタッフが出勤できなくなったり、医薬品などの搬入が滞ります。限られた医療リソースでより多くの負傷者を助けるため、次に説明する患者の状態ごとに治療の必要性を判断し診療や看護を受ける順番などを決定します。この診療前の過程を「トリアージ」と呼びます。
 直ちに治療する必要がある患者、基本的にバイタルサインが安定していて多少治療開始が遅れても生命に危険がない患者、軽易な傷病で専門医の治療を必要としない患者、気道を確保しても呼吸がない・既に死亡している・心肺蘇生をしても蘇生の可能性がない患者の4つに分類することで、治療対象者を絞り込んで診療していきます。

行政などが多方面から災害避難を支援

 医療機関が災害時医療サービスの提供で対策をとっていることに呼応し、行政や各種団体などが協力して、災害発生時から復旧・復興後まで、被災者を支援する取り組みが進んでいます。
 その1つが、災害時の看護に関する活動方法や知識を体系化している日本災害看護学会による学会認証「減災ナース指導者」の養成です。これは自分が住む・働く地域の防災・減災に取り組める看護師を『まちの減災ナース』として育成していく取り組みです。
 その指導を担当している小原先生は、自然災害の防災・減災対策として、次の3つの対応策の必要性を強調します。「1つ目は行政が設置する避難所などの救護資材や機材の整備や点検。2つ目は医療や行政などのプロフェッショナル、さらに地域防災を担う住民なども含めた災害発生時の緊急対応ネットワークの構築。3つ目は住民が地域防災や自主防災に参加していくように災害対策への意識を高めていくことです。『まちの減災ナース』は公助、共助、自助を充実させるために、これらの対策に積極的に協力していきます」。

災害時、要配慮者に実施されるトリアージ

 小原先生らは、2011年度から2013年度、引き続き2014年度から2017年度の科学研究費助成事業で、「災害時における要援護者トリアージの開発」に取り組みました。その中で、前出の災害時の負傷者トリアージと異なる避難時の「要配慮者トリアージ判断基準」を示しました(表1)。
 要配慮者とは高齢者、障害者、難病患者、乳幼児、妊産婦、外国人などで、災害の発生前後で避難先や避難生活で特別な配慮が必要な方です。このトリアージ判断基準では、避難する方の状態を4つに区分します。
 区分1は医療処置を必要とする避難者です。感染症に罹患している可能性が考えられる場合は、他の避難者への感染を防止するために、病院に搬送するか、避難所内の隔離できる部屋を提供する必要があります。
 区分2は食事、排泄など日常生活全般に介助が必要な避難者です。そのような状態の方を受け入れるための設備、器材、人材を備えた「福祉避難所」あるいは避難所内に設置された「福祉避難室」へ誘導する手配をします。
 区分3は、一部介護が必要な人、産前・産後・授乳中の人、医療処置を行えない人、3歳以下とその親、精神疾患をもっている人など状態に応じてグループ分けをして、グループごとに小部屋を用意します(表1)。この区分にはコミュニケーションに配慮が必要な聴覚障害をもった方も含めるべきという意見もあります。
 区分4は、健常な方々で、避難所の大部屋での対応になります。しかしコロナ禍においては適切な感染防止の措置が必要です。
 このトリアージは、まだ国レベルで認められていないので、自治体ごとに差違があると考えられます。。配慮が必要な方やその家族は、それぞれ居住する自治体に確認しておくことを勧めます。

平時に準備しておくべき災害時への備え

 自然災害のうち集中豪雨などの水害は、気象予報などを参考に、自治体などが必要に応じて事前に避難を呼びかけるので、比較的余裕をもって対応できます。一方、大地震の予知はまだ難しいようです。緊急地震速報で知らされてから揺れが始まるまでにできることは限られています。被災時の受傷を軽減させるための家具の転倒・落下・移動防止対策などの自宅の備えは、平時に行っておきます(表2)。
 そのほか、水や食料の備蓄も必要です。食料は停電などで調理できない場合に備えて非常食を確保しておくことが大切ですが、食生活を大きく変えないために、普段食べ慣れているものを多めに買ってストックしておくことも有効です。
 被災後に必要となるものはほかにもあります。情報収集に必要な受信、通信機器が稼働するかどうかを点検したり、親族などに自分の生存を知らせる災害伝言ダイヤルなどの使い方を確認しておくことです。
 かかりつけ医の休診や薬局の休業が想定されますから、処方された医薬品は3日分程度余計に持っていると安心です。また、かかりつけ医の診療を受けられない場合に備えて、他の医師でも速やかに対応できるように緊急医療手帳、お薬手帳などはいつも携行することを心がけてください。
 在宅で療養している方は、利用している医療機器などに応じた準備が必要になります。たとえば酸素療法を行っているならば停電対策として携行用酸素ボンベや外部電源を確保しておきます。
 がん治療のために外来化学療法を受けている患者は注意が必要です。治療を受けている医療機関が前述のように災害時医療体制になっていると、被災者の治療を優先させるからです。このようなときも、がん診療連携拠点病院は他の医療機関で治療を受けているがん患者の相談にも対応するので、その連絡先を調べておき、被災後の治療継続について確認するとよいでしょう。
 被災前でも被災後でも、避難先の確認は重要です。特に家族に要配慮者がいる場合は、民生委員・児童委員や自治体と相談して避難先を決めておきます。そのうえで、どのようなルートを通れば安全に移動できるかも確かめておきます。
 自ら避難行動をとれない家族がいる場合は担架やその代用品を用意しておき、必要に応じて近隣の方々に協力を得られるようお願いしておくことも大事です。
 「1人で移動できない方などは避難時に支援が必要な方として、自治体が要支援者名簿を作ったり、個人それぞれに対応した個人計画を策定して支援する取り組みが始まっています。まだ、名簿の登録・個人計画を作成していない方がおりましたら、勧めていただくようにお願いします」(齋藤先生)。
 「平時に災害への備えをしていても、実際に避難してみると足りないことに気づくことがあります。それを確かめるために自治体などの避難訓練に参加してみることもお勧めします。そのとき担当者に普段気がかりなことなどを相談すれば、よいアドバイスを受けられることが期待できます」と、小原先生は実践的な災害対策も勧めます。