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サービス付き高齢者向け住宅の課題と展望
情報誌けあ・ふるVOL.86(2016/1) 掲載

一般財団法人 高齢者住宅財団 理事長
高橋 紘士さん

 高齢者の急増に伴い、この10年で高齢者住宅の開設が相次いでいます。中でも、2011年に創設された「サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)」は、開設規制がないため、その数が急激に増加しています。一方で、サービスの質や供給面での課題も浮かび上がってきました。それを受けて国土交通省は2014年9月に「サービス付き高齢者向け住宅の整備等のあり方に関する検討会」を立ち上げ議論を開始。2015年4月には中間取りまとめを公表しました。同検討会の座長で、一般財団法人高齢者住宅財団 理事長の髙橋紘士さんに、サ高住の現状と課題、今後のあるべき姿などをお聞きしました。

サービス付き高齢者向け住宅とはどのような住宅ですか。

 日本は世界に例をみないスピードで高齢化が進んでいます。団塊の世代が65歳以上になった現在、国民の4人に1人は高齢者です。団塊の世代が75歳以上になる2025年以降は医療や介護の需要がさらに増大するとともに、住居についてもますます大きな政策課題となります。
 高齢者が住み慣れた地域で安心して暮らせる住まいを確保するために創設されたのが、サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)です。バリアフリーや一定の面積など、高齢者の住まいにふさわしいハードと、安否確認や生活相談などの見守りサービスを備えた住居であれば、都道府県などにサ高住として登録できます。
 サ高住は基本的に「住居」ですから、介護サービスは外部の事業者を利用します。開設規制がないことから、登録数は急増しています。
「サービス付き高齢者向け住宅情報提供システム」によれば、その数は2015年11月末時点で5813棟、18万8595戸になり、政府の住生活基本計画目標の達成に向けて順調に供給が進んでいます。また、2015年度の補正予算で、一億総活躍社会関連で2万戸のサ高住の整備予算が組まれ、補助条件もこれまでに比べ優遇されています。

国土交通省の検討会ではどのような課題が話し合われているのですか。

 この検討会では、サ高住の現状と課題を検討し、今後取り組むべき対策などについて話し合ってきました。
 課題としてまず出てきたのが、立地のばらつきです。事前に高齢者のニーズを十分に調査せず、資産活用を優先して、建てやすいところに建てることも多かったために、高齢者人口に比べて供給が多い地域とそうでない地域がうまれました。特に、今後高齢者の増加が見込まれる首都圏の都市部では全国平均よりも整備率が低くなっています。
 供給の少ない地域では高齢者が住み慣れた土地とは離れた地域のサ高住に入居しなければならないケースもあります。また、医療、介護サービスが不十分な地域ではサ高住が孤立してしまう可能性もあります。
 それぞれの地域で、高齢者がどう増えるのかを見据え、対応するには、現行より市町村の権限を大きくする必要があります。そのため、先の中間とりまとめでは、自治体による立地制限や、総量規制の可能性を盛り込みました。この方針はすでに制度に反映されはじめていて、2016年1月からは補助金の申請の際には立地などに関する市町村の同意を求めることが義務づけられました。なお、補正予算措置によるサ高住は例外とされています。
 もう一つの課題は、24時間対応の定期巡回や随時対応型の訪問介護看護、小規模多機能型居宅介護などの事業所を併設するサ高住が少ないことです。地域包括ケアシステムでは、住まいとしての機能と、地域へのサービス供給拠点としての機能の両方を併せ持つ「拠点型サ高住」の整備の促進が重要だと考えています。
 さらに今後は、“空き家の活用”も求められます。独立行政法人都市再生機構(UR都市機構)の高島平団地(東京・板橋区)では、既存住宅を活用した「分散型サ高住」がオープンしました。これは、空いた住戸を改修して、団地内のサービス拠点から見守りなどの基礎サービスを提供するという試みです。これから、こうした取り組みも増やす必要があると考えています。

サービスの質についてはどのような課題があるのでしょうか。

 サービスの質に関する課題の一つは、特定の介護事業所を利用するような誘導や過剰な介護サービスの提供など、いわゆる“囲い込み”がみられることです。入居者の選択でサービス事業者を選べるように、介護サービスの利用の適正化を図る必要があります。もう一つの課題は、見守りや生活相談サービスの提供体制にもばらつきがあることです。
 さらに、要介護度の高い入居者への対応が課題になります。現時点では、入居者は自立から軽度の要介護度の人が多いものの、要介護3以上の人が約3割、認知症自立度Ⅱ以上の人も約4割おり、介護や医療サービスが必要な人が多く入居しています。今後、この傾向は強まるでしょう。これに対応するには、住居と医療介護の縦割りを超えたアプローチが必要です。つまり、地域包括ケアシステムのなかで、地域資源としてサ高住を適切に位置づける必要があります。

福祉用具の利用や環境の整備についてはいかがでしょうか。

 実は、居住環境のレベルも問題です。若者向けのワンルームマンションの延長のような設計のものを多く見受けます。二四時間そこで生活する高齢者にとっては貧しい居住環境のものが多いのです。
 海外に目を向けると、たとえば日本の特養にあたるスウェーデンの特別な住居は個室で、広さは最低でも35㎡。高齢者にとっては、環境の変化が認知機能にもダメージを与えることが分かっていますから、自宅で使っていた家具を持ち込むなど、極力環境の変化を小さくするよう工夫しています。リフトは必ず設置されていますし、トイレは2人の介助者で介助できるだけのスペースを取ってあり、本人にも介助する人にも優しい設計です。日本のサ高住でも、今後はこうした視点を取り入れて、安心で快適な住環境を整えることが必要です。
 電動ベッドやリフトをはじめとした自立のための福祉用具には、その人に応じた個別性が求められますし、状態像の変化にも対応しなければなりません。付加価値の高い製品を多くの人でシェアできる貸与のシステムは社会の仕組みとして非常に有効です。快適な住環境の整備のために、福祉用具メーカーや流通事業者には、より質の高い製品・サービスの開発に努めていただきたいと思います。