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胸やけは「胃食道逆流症」の危険信号
情報誌けあ・ふるVOL.86(2016/1) 掲載

慶應義塾大学医学部 医学教統轄センター 教授
鈴木 秀和先生

高齢者、臥床患者は逆流が起きやすいので要注意

胃から酸っぱいものが込み上げてくる、胸やけがする、のどがヒリヒリする・・・・・・。
 こんな症状を繰り返すようなら「胃食道逆流症」の可能性があります。胃液や胃の内容物が食道に逆流することによって起こる病気で、ここ20年で患者数が急増しています。特に発症しやすいのは高齢者です。また、肥満や食生活の乱れなどがあると若い人でも発症しやすくなります。この病気に詳しい慶應義塾大学医学部医学教育統轄センター教授の鈴木秀和先生に、原因やセルフチェックのポイント、日常生活の注意点などをお聞きしました。

胃酸が逆流して不快な症状を起こす

口から入った食べ物は、食道から胃へと流れます。胃は胃酸を出して、食べ物を消化します。胃酸は非常に強い酸ですが、胃の粘膜からは、これを中和する物質が分泌されており、胃壁が傷つかないようになっています。
 しかし、食道にはこうした防御システムがないため、胃酸が逆流してくると、粘膜がただれたり、酸っぱいものが込み上げてくる( 呑どんさん酸)などの不快な症状が起こります。これが胃食道逆流症です。英語の病名を略して*GERD(ガード)とも呼ばれています。
 健康な人でも食事の後などに、胃酸が逆流することはあります。しかし、それが頻繁に繰り返すようになると、胃酸によって食道の粘膜が徐々に障害されていきます。

放置すると重症化することも

 胃食道逆流症の症状としてよくみられるのは、胸やけ、呑酸、胸のつかえ、のどの不快感などです。しかし、患者さんの中にはせきが続いたり、喘息に似た症状が現れたり、心臓病のような胸痛を訴えるケースもみられます。
 この病気は、直接命に関わることはありません。しかし、症状が長引くと、好きなものが食べられない、集中力が低下するなど生活の質(QOL)が大きく低下します。また、放置しておくと、胃酸の逆流によって食道が繰り返し傷つけられ、出血するなど重症化することもあります。
 そこで大事なのが早めの受診。鈴木先生たちは、その目安となる問診票( 表1)を作成しています。病院やクリニックで広く用いられているもので、家庭でも利用できます。過去1週間の症状を振り返って、「胸やけはどのくらい( 何日)ありましたか?」「吐き気はありましたか?」といった6個の質問に答える簡単なもの。実際に、表1で該当するところに「○」をつけてみてください。
 6問に答え終わったら、4ページのスコア表( 表2)に従って、点数を数えてください。
 「スコアの合計が8点以上なら胃食道逆流症の可能性があります。自己チェックしてみて、疑わしいと思った場合には、我慢しないで、早めに受診してください」と鈴木先生はアドバイスします。

逆流の原因は食道と胃の境目の筋肉の緩み

 どうして胃酸の逆流が起こるのでしょうか。鈴木先生によると、原因の1つは、食道と胃の境目にある筋肉( 下かぶしょくどうかつやくきん部食道括約筋)の緩みです。この筋肉は、食道と胃の間のドアで、食べ物が通過するとき以外はしっかり閉じています。ですから、通常はいったん胃に収まったものが食道に戻ることはありません。しかし、この筋肉が緩んだり、すき間ができると、胃酸や食べた物が逆流するようになります(図)。
 「高齢者にこの病気が多いのは、下部食道括約筋の機能が弱くなっているのが一因です。また、食事が済んだ後すぐに横になると逆流が起きやすくなります。特に臥床患者などの場合は、食後しばらく背を上げた状態を保つようにしなければなりません」(鈴木先生)。

胃酸の出過ぎ、腹圧の上昇も一因

 もう1つの原因は、胃酸の出過ぎです。肉類など高脂肪、高たんぱくの食品を食べると、それを消化するために多くの胃酸が分泌されます。胃酸が多いほど、括約筋が緩んだとき、逆流する胃酸の量も増え、胃食道逆流症を起こしやすくなります。また、高脂肪食などに限らず、食べ過ぎや夜食など不規則な食事も胃酸の分泌量を増やします。
 もともとこの病気は欧米人に多く、日本人には少ないといわれていました。しかし、食生活の欧米化で動物性たんぱくや脂肪の摂取量が増加。それに伴って若い人でも患者が増えています。
 一方、胃酸の量がそれほど多くなくても、腹圧が上昇することで逆流が起こることもあります。典型的なのは肥満の人です。
 「肥満があると、腹圧が強くかかるので、胃の内容物が周囲から押し上げられ、逆流を助長します。また、高齢者で背中が曲がって前屈姿勢になっている方は、やはり腹圧が高くなり、逆流を生じやすいので要注意です」と鈴木先生。

治療には胃酸分泌を抑える薬が有効

 胃食道逆流症の診断は、特徴的な症状の有無と内視鏡検査で行います。胸やけなどの症状があり、内視鏡検査で食道にびらん(ただれ、傷)がみられれば、胃食道逆流症と診断されます。
 ただ、中には症状があっても内視鏡検査では、まったく病変がみつからない患者もいます。「しかし、こうしたケースも、詳細に調べるとミクロのレベルで食道に微細な変化がみられることが分かってきました。このため現在は、胃酸の逆流による症状があれば、すべて胃食道逆流症として治療するようになっています」(鈴木先生)。
 治療には胃酸の分泌を抑える「プロトンポンプ阻害薬(PPI)」という薬剤が用いられます。PPIを飲むと、胃酸の分泌量が減り、逆流による症状はほぼ解消します。ただ、途中で服用を止めると胃酸がまた増え、症状が再発します。このためPPIは長期間服用し続ける必要があります。
 胃食道逆流症の予防や治療で、薬物療法以上に大切なのは食事を含めた生活習慣の改善です。鈴木先生はそのポイントとして、① 食べ過ぎない、② 高たんぱく高脂肪の食事は控えめに、③肥満の解消に努める、④食後すぐに横にならないことを挙げています(表3)。
 高齢化や食事の欧米化で胃食道逆流症は今後さらに増えていくとみられています。鈴木先生は「生活習慣の見直しや、ケアの工夫などで、予防に努めることが大事」と話しています。